「あのね、女子たち。
トキメキは大事!
トキメキはパワーですよ!!」
(『この宇宙にはあなた一人しかいない 及川光博名言集』より)
かつて「王子」と呼ばれていたミッチーこと及川光博も50代後半、還暦間近なのである。1996年、シングル『モラリティー』でミュージシャンとしてデビューし、2026年でデビュー30年となる。
観客も「キラキラヒロイン」にしてしまうミッチーパワー
デビュー当時、自他ともに認める「王子」キャラだった及川はビジュアル系的な属性に文学性や演劇性を付与することで差別化を図っていた。もともと学生時代演劇部にいた及川は、1998年、ドラマ『WITH LOVE』から俳優活動もはじめる。この年、早くも「王子」を辞めている。こう呼ばれることで、色物に見られることに抗いたかったようだ。
筆者はミッチーのコンサートに一度だけ行ったことがある。お約束のヒット曲「死んでもいい」がはじまる前、多くの観客がおもむろに自身のバッグを開け、ポンポンを取り出した瞬間が忘れられない。ファンがコンサート会場でうちわやペンライトをあらかじめ持って応援する気満々で待機しているのとはまた違う独特のムードがあった(うちわやペンライトの否定ではありません、念のため)。
それまで丸腰(?)だった観客がポンポンを取り出した途端、キラキラヒロインに変身したかのように思えたのだ。まさに「トキメキはパワー」。ステージ上のスターがお着替えして変身するのは当たり前だが、観客まで変身させてしまう及川光博のその演出手腕に感心し、ポンポンを持っていない自分を心底残念に思った。ポンポンはオフィシャルグッズとしても売られているが、自分で作るけなげなファン(及川いわく“ベイベー”)もいて、それもなんだかよかった。
2001年、及川はPARCO劇場で上演された美輪明宏主演『毛皮のマリー』で美少年・欣也役に抜擢された。美輪様に選ばれたということが彼の実力や格をぐっと高めたと筆者は思う。このとき筆者は、美輪様と及川に取材をした。及川は美輪様の傍らにすんっとして座り、その様には『ベルサイユのばら』におけるアンドレ的な雰囲気を感じた。取材が滞りなくできたのは、及川が美輪様のエスコートを上手にしてくれていたからではないかと勝手に彼に感謝している。
『毛皮のマリー』は女装の男娼が美少年・欣也の母として共に暮らしている倒錯的な話。及川にはどこかアングラのいかがわしさもあって、そこも魅力であった。キレのいい一重まぶたがときにエレガントに、ときに獰猛にも見える。高貴と猥雑を自在に行き来する、その世界の仕組みをわかっていそうなところこそ、彼の最大の魅力であろう。

