バレーボールが得意な妹は、スポーツ推薦で有名大学に入学しました。幼い頃から成績も良く、器用に何でもこなすタイプです。卒業後しばらくは企業のバレー団に所属していましたが、引退後はスポーツキャスターとして活躍するようになりました。
妹はある企業の重役の息子と交際しており、結婚を考え始めていました。
僕が仕事を辞めて家にいるようになると、僕の存在が結婚の足枷になるのではと心配していたようです。世間では元農水事務次官の長男が引きこもりで、その家庭内暴力に耐えかねた父親が息子を殺害するといったショッキングな事件が世間を騒がせていました。
僕たちのような裕福な家族にはニートや引きこもりは少なくないのです。だからこそこの時期、家族にそういう人がいないか、結婚を考えている人たちは敏感になっていたはずです。
妹の結婚が破談したワケ
妹の彼氏が両親に挨拶に来る日、僕は家を出るようにし、あえて姿を見せないようにしていました。それでも結婚となると、いつまでも無視をするわけにもいかず、両家の食事会には顔を出すようにと言われてしまったのです。
僕は渋々、スーツを着て出かけることにしました。引きこもりということがバレれば破談になりかねないので、もし聞かれたら友人と起業の準備をしていると答えるよう言われていました。
先方の家族には妹がふたりいました。厚化粧で見るからに傲慢そうな姉妹でした。しかし、こういう女に限って鼻が利くようです。
お酒も入り、両親たちはいつになく楽しそうな様子でした。僕は会話に入れず、ひたすらビールを飲んでいたところ、この姉妹に質問攻めにあうことになってしまったんです。
「お兄さん、ビールお注ぎしますよ」
姉妹のひとりは空いたグラスにビールを注いでくれました。
「すみません」
「前回はお会いできなかったので、今日お会いできることをとても楽しみにしていました」
わざとらしい挨拶に、僕は不快な気持ちを紛らわすようにグラスに注がれたビールを飲みほしました。普段、お酒を飲む習慣がないので、かなり酔いが回っていたと思います。
「お兄さんはマスコミ関係にはいかなかったのですか?」
「はい、興味がなくて」
「もったいないですね。花山先生のコネがあれば有利でしょう」
あからさまな言い方に、僕はカチンときました。