引きこもりとなり、家族の中で「存在しない者」として扱われてきた40代男性。妹の結婚をきっかけに、抑え込んできた怒りと劣等感はついに爆発する。東大卒の父と常に比較され続けた末に起きた、取り返しのつかない一夜とは――。
阿部恭子氏の新刊『お金持ちはなぜ不幸になるのか』(幻冬舎)より、裕福な家庭が迎えた最悪の結末をお届けする。なおプライバシー保護の観点から、本文中の人物名はいずれも仮名である。(全3回の3回目/最初から読む)
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労働意欲の喪失
学校だけでなく会社でもいじめやパワハラの被害を受けた僕は、社会に出ることを諦めました。家には働かなくても僕ひとりが生きていくには十分すぎるお金があります。別に外で働かなくても投資でもして資産を増やすことだってできるだろうし、僕は再就職しないと母に宣言しました。
納得とまではいきませんが、母も半ば諦めた様子でした。ただ、こんな僕でもパートナーがいた方がいいと、NGO団体でボランティアをしている女性を紹介されました。
高橋葵という女性は僕と同い年でしたが、服装が落ち着いているからか、少し年上に見えました。特に美しいわけではなく、かといって醜いわけでもなく、付き合うかどうかは性格次第かなと思いました。
ふたりで食事をすることになったのですが、人の話を聞かずに料理にがっつくマナーの悪さや相手への配慮のなさに僕は興ざめしました。ニートのくせに、「翻訳家」とまで豪語するところも引いたし、その見栄に知性が追い付いていない印象を受けました。
「私はあんたにはもったいないわ」
と言わんばかりの傲慢な態度。こっちから願い下げです。
