親のコネで入社した会社で待っていたのは、露骨な無視と嘲笑だった。「コネ入社は僕だけじゃないのに、なぜ僕だけが標的になるのか」。家庭でも学校でも逃げ場を失ってきた40代男性は、職場でついに心を折られていく。
阿部恭子氏の新刊『お金持ちはなぜ不幸になるのか』(幻冬舎)より、エリート家庭に生まれながら「社会から脱落していく過程」をお届け。なおプライバシー保護の観点から、本文中の人物名はいずれも仮名である。(全3回の2回目/続きを読む)
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父はエリート、母はお嬢様
僕の母親はとにかくでしゃばりで、人の上に立たないと気が済まない女性でした。PTAや地域のまとめ役を積極的に引き受けていたと思います。母は田舎のサラリーマン家庭の娘で、短大しか出ていません。昔、地方では特に女性に学歴は必要ないと言われていたので、それが普通だったのでしょう。
父はエリートで、同僚の奥さんたちもたいてい有名女子大卒のお嬢様です。父との学歴格差に、母は水商売をやっていたのではないかという噂が流れた時期があり、僕はそれを理由にいじめに遭っていました。
「お水の息子」
中学生の頃、こんなことを書かれた紙が下駄箱やロッカーに入っていることがありましたが、とても母には言えませんでした。僕が反論しないので、次第にいじめはエスカレートしました。
ある日廊下を歩いていると、誰かに突き飛ばされ僕は転んでしまいました。すると、
「おい待てよ」
妹が飛んできて、僕を転ばせた奴の首元を摑んで職員室まで連れていったのです。
妹はバレーボール部に所属していて男勝りで、幼い頃から僕より背が高く筋肉質でした。
いじめっ子たちは皆、妹に吊るし上げられ、それ以来僕がいじめられることはなくなりました。
妹はバレーボール部のエースをしていて、高校生になると、街でスカウトされることもあるほど美人でスタイルが良かったのです。僕が妹の兄だとわかるとスクールカーストが上がり、それもあっていじめはなくなっていきました。
