お金があれば幸せになれる――そう信じる人は多い。だが、現実は必ずしもそうではない。加害者家族支援の第一人者であり、支援団体「World Open Heart」の理事長を務める阿部恭子氏が見てきたのは、むしろ「お金によって壊れていく家族」だった。

 新刊『お金持ちはなぜ不幸になるのか』(幻冬舎)より、裕福な家庭に生まれながら「不幸な人生」を送った40代男性のケースをお届けする。なおプライバシー保護の観点から、本文中の人物名はいずれも仮名である。(全3回の1回目/続きを読む

写真はイメージ ©getty

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親に隠し続けてきたいじめ

 僕が妹から暴言・暴力を受けるようになったのは数年前からです。妹は既に実家を出てひとりで暮らしていたのですが、時々、両親が不在の時間帯に帰ってきては僕に酷い暴力を振るうのです。

「おまえ、いつまでここにいるんだよ!」

 リビングのソファーで寝ていた僕は、妹の怒声で叩き起こされました。僕は脇腹を蹴られ、あまりの痛さに床に倒れ込みました。

「汚いんだよ、ゴミ!」

 うずくまる僕の背中を妹は何度も蹴り続け、頭を踏みつけました。そして僕の足を持ちベランダまで引きずり出すと、中から鍵をかけてしまったのです。

「頼む、開けて!」

 真冬の寒空に僕は放り出されました。あまりの寒さに、僕は叫び続けました。

 ところが、妹はガラス越しに、「飛び降りろ!」

 分厚いガラス戸の向こうで、そう言っているのがわかります。

「飛べ! 飛べ!」

 妹は下を指さしながら、そう言いました。それから一時間近く、僕は薄着のままベランダに放置されていました。

 しばらくして暖かい空気を肌に感じたと思ったら、僕は家の中に引きずられていました。手足の感覚がなく、身体中痛くて立つこともできません。

「ほら早く行けよ! お母さん帰ってくる」

 妹はまた何度も背中を蹴ったり頭を踏みつけたりしました。

「早く立てよクズ!」

 妹は僕の髪を摑み上げ、立たせようとしました。身体に力が入らず、もたもたしているうちに玄関の鍵が開けられる音がしました。母が帰ってきたのです。

「やだ、寒いじゃないの」