「これは、地獄ですね。精神的にはだいぶおかしくもなりました」
街中で、仲のよい親子連れを見てパニックになり、叫んでしまったこともあったという。
昨年7月、断酒をスタートさせた。
「少しでも妻の恐怖心を和らげることができればと思いました。それぐらいのことをしないと、自分は変われないという思いもありました」
今年4月から、オンラインによるペアカウンセリングを開始した。妻の恐怖心が薄れ始めたことで、カウンセラーの同席を条件に画面上の対面が可能になったのだ。子どもたちの近況を聞いたり、子どもたちのために夫婦として何ができるのかを考えたりといった話し合いをしている。カウンセラーは同席しているが、口をはさむことはない。
妻との会話の中で、妻の考えを尊重できるようになってきたという感触がある。最近では、妻から子どもたちの画像や動画がたくさん送られてくるようになった。ただ、妻子の住所を知らされるまでには至っておらず、まだ、どうなるかはわからない。
暴力を容認する価値観や習性を修正する
中村教授は、脱暴力支援に取り組む「一般社団法人UNLEARN(アンラーン)」(京都市)の代表理事を務めている。日本の場合は海外と違い、DV加害者に対して更生プログラムの受講を義務づける制度がなく、民間団体はそれぞれのやり方でプログラムを行っているのが現状だ。
UNLEARNは、自治体の委託を受けてプログラムを開催している。
ここでは、講義もカウンセラーによる心理療法も行わない。5~6人という少人数での対話がメインのゼミナール方式だという。
「直近2週間のエピソードを語ってもらいながら、その中に含まれている、暴力を容認するような価値観や習性を修正していきます」
「変わったか」判断するのはパートナー
一般的には、変わることができるDV加害者は非常にまれだと言われている。加害の自覚がないうえに、自分は絶対正しいと思い込んでいるからだ。
その中でも、離婚を切り出されたことをきっかけに心を入れ替えようとする人は、多いとは言えないがいる。しかし、長い年月をかけて身についた価値観や習性を変えるのは、たやすいことではない。