モラハラをする人は、なぜモラハラをするのか。ジャーナリストの林美保子さんは「私が取材したのりすけさん(仮名)は、テーブルから箸が落ちたり、ジュースがこぼれたというだけで怒鳴り散らしたり、妻が定価で買い物をしてくると怒ったりしていた。彼は、自分がモラハラ行動をしてしまうのは、父や祖父が日常的に暴力を振るうような家庭で育ったことに、その一因があるのではないかと分析していた」という――。
突然、妻は子どもを連れて出て行った
「すごくいい夫だと、自分では思っていました」
のりすけさん(仮名・36歳)は、掃除、洗濯、買い物、料理もする。息子が生まれると、お風呂に入れるのも、保育園の送り迎えも、毎日必ず行った。優秀なキャリアウーマンである妻が、思い切り仕事ができる環境をつくってあげたいと考えていたのだ。
ワンオペの家事育児に心身をすり減らしている女性にとっては、理想的な夫に映るのではないだろうか。
ところが、結婚4年後のある日、妻は2歳の息子を連れて家を出て行き、行方知れずになってしまった。さらには弁護士を通して、「離婚を考えている」と伝えてきたのだった。
のりすけさんは愕然とした。当初は、妻が何の断りもなく突然出て行ったことで、あっという間に家庭が崩壊して、愛するわが子にも会えなくなったことにショックを受け、妻の仕打ちへの怒りと、「自分は何も悪いことをしていないのに」という被害者意識で頭がいっぱいになった。
「あなたが怖い」と言う妻
ある日突然、配偶者が子どもを連れて出て行き、行方知れずになるというケースは少なくない。なかには、「自分には落ち度がないのに、勝手に子どもを連れ去った」と実子誘拐を主張して、相手を刑事告訴する人までいる。
ただ、のりすけさんの場合、妻が出ていった理由はなんとなくわかっていた。自分は夫としての役割をしっかり果たしているという自負があったが、その一方で、妻が自分を怖がっていることを知っていたのだ。
