「あなたがやっていることはDVなのよ。怖い、怖い」と何度も言われていた。

のりすけさんは、妻に暴力をふるったことはなかった。DVとは殴ったり蹴ったりするような身体的暴力のことを指すと思い込んでいたのりすけさんは、DVだと言われてもまったく身に覚えがなく、妻の言葉をまともに受けとめようとしなかった。

「妻が怖がるようになったきっかけは、何だろうな。思い出せないですね。積み重ねだとは思います」

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妻と子どもが出て行ったあとののりすけさんは、「何とかしなければ」と考え、夫婦関係について書かれた本を読み漁り、カウンセリングも受けた。その中で知ったのは、相手を「怖い」と思わせる言動すべてがDVにあたるということだった。それから過去の自分の言動を振り返ってみると、いまさらながら、自分がどれだけ妻を傷つけていたかに気づいた。

「箸を落とした」ささいなミスで怒鳴り散らす

「私は理屈屋なんです」と、のりすけさんは言う。

どんなに小さなルールも遵守することを信条としていた。車がほとんど通らない道でも、赤信号で道を渡るようなことはしない。そんな自分を誇らしいと思っていた。職場でもプライベートでも、自分が正しいと信じることが通らないと、「それはおかしい!」「私の方が正しいのに!」と怒りがこみ上げた。そのせいか、人間関係がなかなかうまくいかず、いつもイライラしていた。

そんなイライラを抱えたまま家に帰ると、「テーブルから箸が落ちた」「ジュースがこぼれた」といった、ほんのささいなことが怒りの引き金になる。

「なんで、もっと緊張感を持って生活しないんだ!」と妻をなじり、怒鳴り散らした。何がのりすけさんの気に障るのかわからず、何がきっかけで逆上するか予測がつかないため、妻はびくびくしながら生活するようになっていった。

無類の酒好きだったのりすけさんは、飲むと気が大きくなり、さらに饒舌になり、一度怒りに火がついたらなかなかおさまらなくなる。そして始まるのが、2時間にもおよぶ説教だった。