現在、のりすけさんは過去のトラウマに向き合いながら、「認知のゆがみ」(物事を偏った見方でとらえてしまう思考パターン)などの、不健全な家庭で育ったために身についてしまったことや、身につけることができなかったこと(良好な対人関係の築き方など)を洗い出して、学び直しているさなかにある。
「私は、家族の愛情を知らないまま大人になってしまったので、唯一信じることのできる法律や道徳観をよりどころに、『こうあるべき』という姿を描いて、そこにすべてを当てはめようとする『べき思考』で生きてきたのではないかと思います。頼るものが、それしかなかったのです」
「対等な関係」の作り方がわからない
妻にはよく、「夫婦は一心同体だ」と言っていた。夫婦といえども、別人格の自立した大人同士であるという認識が著しく欠如していた。
「夫婦は対等だとか、相手の考えや感情を尊重すべきだと言われても、夫婦といえば、大正生まれで対等とは程遠い祖父母しか見たことがなかった。そのために、どうしたら相手を尊重する関係がつくれるか、方法がわからないのです。だから、『節約すべき』『掃除も洗濯も、私がイメージする通りに完璧にすべき』という、自分が信じる『正しい姿』『あるべき姿』を押し通そうとして、他の人がそこに当てはまらないと責めてしまう。おそらく、私のようなモラハラ人間は多いと思います」
先が見えない苦しみ
別居してから2年、ずっと先が見えない苦しみが続いている。妻は、弁護士を立ててきたくらいだから、「いつ、離婚調停の知らせが来るかわからない」という恐怖心もあった。
別居後に誕生した第2子の娘には、まだ一度も会っていない。それでも、のりすけさんは、自分からは子どもに会うことを求めてこなかった。
「妻は私が怖くて逃げたのですから、私が一方的に気持ちをぶつけると関係が壊れてしまうと思ったのです」
妻の負担にならないように、子どもに会いたい気持ちを我慢し続けた。