安全保障を担当する首相官邸幹部が、独自の抑止力を強化するために「私は核保有すべきだと思っている」と発言したことで、政府が対応に追われている。

 現在発売中の「文藝春秋」1月号では、慶應義塾大学教授の神保謙氏、法政大学教授の小黒一正氏、元陸将の用田和仁氏が、日本の安全保障環境の現状を踏まえつつ、タブーなしに「核」について徹底議論した。その一部を紹介します。

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米中の“手打ち”は危ない

 神保 地政学的な逆説として、大国間の関係が安定すればするほど、地域レベルでは安全保障環境が不安定になる側面はあります。

安全保障問題が専門の慶應義塾大学教授の神保謙氏 ©文藝春秋

 小黒 先の米中首脳会談でも、レアアース問題で急所を突かれた米国は、台湾問題を持ち出せませんでした。私が最も懸念するのは、南シナ海の管理を含め、米中が“手打ち”をするケースです。その場合、日本は自分の身をどう守ればいいのか。台湾が置かれている状況は、日本にとっても他人事ではなく、米中が手を握るという最悪のシナリオも想定しておかなければならない。

 神保 現在、中国の核弾頭は600発ほどですが、2030年代には1500発に達すると言われています。すると先制攻撃を受けても、残存する核兵器で報復攻撃ができる「第二撃能力」が確実に担保できるだけでなく、柔軟反応的な戦闘能力を確保できるようになります。冷戦期の米ソのように、米中に互いが手出しできない相互脆弱性の状況が生まれつつあります。

元陸将で、自衛隊の「南西シフト」の現場を知る用田和仁氏 ©文藝春秋

 用田 つまり、米国から見て日本は、黙っていても「大切だから守ってやる」という状況ではない。米中露の大国間秩序が主流になれば、ウクライナのような「緩衝国」とみなされる可能性がある。だからこそ、日本は「米国の核の傘」をあてにするのではなく、自前で「核保有」すべきです。