小黒 同感ですが、ただ実際に米国が日本のために核を使うという決断をするには、ハードルが相当、高くないですか。例えば、中国の最新鋭のSLBM「巨浪3」は、射程が1万2000キロで米国本土を核攻撃できます。そんななかで、中国が日本を核攻撃した場合、米国が自国民を危険にさらしてまで日本を守るのか。大いに疑問です。

 神保 北朝鮮の核・ミサイル開発にも通じますが、核をめぐる「(同盟国間の)デカップリング」の問題ですね。第一次トランプ政権では、対北朝鮮交渉にのぞむにあたって、「ICBMの開発・配備を凍結させ、米本土の安全をひとまず確保すべき」という議論もなされました。

 しかし、そうやって米国が本土防衛を優先すれば、北朝鮮の脅威に対して、米国と日韓の間で利害の不一致が生じます。北朝鮮はまさにそこを突いて核攻撃の恫喝を強めて、米国と日韓の分断(デカップリング)を図るでしょう。

北朝鮮のミサイル ©時事通信社

 用田 「核の傘」が機能する上での鍵は、17年に米陸軍に創設されることが決まった多領域任務部隊「MDTF」です。中距離ミサイルを核心として宇宙やサイバー空間などにも対処します。しかし、ハワイに一部配備された以外はすべて米国本土や欧州。日本には配備されず、「核の傘」を担保すべき中距離ミサイルは日本には存在しないのです。冷戦時代に核の均衡を図るために欧州にパーシングミサイルを配備した事例を忘れ、日本政府は何もせず米国の核抑止を自ら断ち切ったのです。

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 神保 おっしゃる通りで、潜水艦に搭載され、短・中距離で精度の高い打撃が可能な核戦力は、拡大抑止の信頼性を支える重要な要素です。この点は、第一次トランプ政権下の核戦略見直しで一時、議論されたのですが、バイデン政権下でストップしました。以来、韓国では核武装論が盛んになり、世論調査では、核武装支持が6~7割に達しています。

日本の命運を他国に委ねるな

 用田 ウクライナ戦争が始まる直前、バイデン大統領は、「米国はロシアと直接、砲火を交えない」と述べました。核戦争を避けるため、という理屈ですが、そうであれば同じ理屈で米国は北朝鮮や中国とも戦わないはずです。このバイデンの発言に韓国は衝撃を受け、核保有賛成派が激増しました。マクナマラ国防長官、キッシンジャー国務長官などは退官後に「同盟国を守る為に他の核保有国と戦争することはない」と言っています。日本に残された選択肢は、(1)中国の軍門に降るか、(2)劣勢のまま通常戦力で戦って国を滅ぼすか、(3)核を保有し自立するかの三択しかない。

※本記事の全文(約11500字)は、「文藝春秋」1月号と、月刊文藝春秋のウェブメディア「文藝春秋PLUS」に掲載されています(用田和仁×神保謙×小黒一正「高市首相『持ち込ませず』見直しでは甘い…中国には核保有も選択肢だ」)。全文では、以下の内容をお読みいただけます。
・定まらない「米国の対中戦略」
・「台湾有事」は「日本有事」か?

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出典元

文藝春秋

【文藝春秋 目次】前駐中国大使が渾身の緊急提言! 高市総理の対中戦略「3つの処方箋」/霞が関名鑑 高市首相を支える60人/僕の、わたしの オヤジとおふくろ

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