日々変わるトランプの言動によって世界が振り回されている。今日、とりわけ不可解に思われ、多くの人が「トランプの真意」を図りかねているのは、次の2点だろう。

①トランプが追加の「対露経済制裁」を口にしながら、「ロシア寄りの和平案」の受諾をウクライナに強要しようとしているのはなぜか。

②(高市首相の「存立危機事態」発言問題に関する“意外なほど中国寄りの態度”や欧州への強硬姿勢のように)トランプが「敵国よりも同盟国に強硬」なのはなぜか。

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 単なる「気まぐれ」のようにも見えるが、実はそうではない。エマニュエル・トッド氏と佐藤優氏の対談「米国の敗北を直視して核武装せよ」(「文藝春秋」2026年新年特大号、「文藝春秋PLUS」に全文掲載)が「トランプの真意」を明らかにしている。(通訳・堀茂樹)

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敗北を糊塗して撤退する米国

 佐藤 『西洋の敗北』では米国に対するロシアの軍事的優位に言及しています。軍事的優位を確信できたからこそ、ロシアは米国を恐れずにウクライナに侵攻できたのだ、と。

 トッド 米国はすでに敗北したウクライナ戦争から撤退する方が賢明です。これはまさにトランプとトランプの側近たちが望んでいることです。

エマニュエル・トッド氏

 しかし他方で、これは米国にとって戦略上の大敗北です。そうである以上、この敗北を認めることは、1つの大きな歴史的転換、破局的な転機を画することになります。世界中の人々が「アメリカ帝国の終焉」を確認することになるからです。

ただ一人“上座”に座るトランプ氏と欧州首脳(ホワイトハウスのXより)

 トランプは2つの不可能性に直面しています。すでに敗北している戦争を続けられないが、みずからの敗北も認められない。さらなる対露制裁を口にする一方で、ロシア寄りの和平案の受諾をウクライナに強要するという一見、不可解なトランプの言動はここから理解できます。

 現在、トランプ政権がウクライナ戦争から少しずつ撤退している様が見てとれます。しかし米国の敗北であるという事実は糊塗しながら、そうしているのです。敗北の責任をゼレンスキー大統領とウクライナ国民に押しつけたのはそのためです。「十分な資金と武器をウクライナに供与しなかった」として責任を欧州諸国に押しつけているのも同様です。

トッド氏の著作『西洋の敗北と日本の真実』

 トッド 米国、とりわけヴァンス副大統領のようなトランプの側近やペンタゴン〔米国防総省〕は、米国がロシアに敗北したことをすでに理解し、この現実を受け入れている。おそらく中国との真っ向対立も、彼らは諦めている。その意味で、世界最強だった「アメリカ帝国」は、ある部分で縮小過程にあるのです。