コロナ禍で大学中退し、俳優業に専念
デビューの翌年、大学2年生になるのと前後してコロナ禍に入ってしまう。授業がリモートになったのを機に完全に俳優業にシフトし、けっきょく中退している。このころ、高校生たちが時代劇映画の制作に一夏をかけるという映画『サマーフィルムにのって』(2021年)の撮影が進んでいたが、これもコロナ禍により中断を余儀なくされる。
それでも彼女は前向きだった。《中断して、みんな落ち込んだけど、この映画の肝になるラストシーンを本当の夏に撮れて、本当によかったよねって言い合いました》とは、同作を含む複数の作品で2021年度のキネマ旬報ベスト・テンの新人女優賞を受賞したときの発言である(『キネマ旬報』2022年2月下旬号)。
「やめて!」と叫び声をあげながら…その場にいた全員の心を摑んだ表現力
このとき新人賞の対象作品となったひとつ『由宇子の天秤』(2021年)の春本雄二郎監督は、事務所側から紹介された河合が同作での役にハマるかどうか見極めるため、自分の主宰するワークショップに参加してもらったところ、その表現力に何度も驚かされたという。なかでも、用意された設定のもと自由に演技する課題での彼女の行動は型破りだった。このときのことを春本監督は次のように振り返る。
《河合さんは自分の番になると部屋を出たのです。そして『やめて!』と叫び声を上げながら部屋に入るところから芝居を始めました。『この女の子に何があったんだろう?』と想像を膨らませる発想力と表現力に、その場にいた全員が間違いなく心を摑まれていました》(『週刊現代』2025年7月7日号)
ただ、河合自身は新人時代を顧みて《まだ感覚的に、思うままに演じていた》と語る(『AERA』前掲号)。同時期に撮影した映画『偽りのないheppy end』(2021年)では松尾大輔監督から、演技での体の動きの一つひとつに対しなぜそうしたのかと問われ、無意識で動いていることに気づき、その理由を答えられなかった。このあと、いったん撮影を抜けて初舞台となる『some day』(2019年)の稽古に臨むと、作・演出の倉本朋幸から「感情を考えないで、シチュエーションだけを考える。感情はあとからついてくる」と教えられる。舞台を終えて撮影に戻り、さっそく実践してみたところ、監督から「あれ、良くなりましたね」と言われたという。こうして彼女は作品ごとに学びながら、俳優として着実に成長していった。(つづく)

