「漫画家マンガ」は最後のネタ
むろん、サブカル界の鬼才として知られる古泉氏が描くのだから、ただの”アンサーソング”ではない。古泉氏が同人誌即売会の出張編集部に持ち込みに出かけ、ケンモホロロの扱いを受けた実体験を織り混ぜ、予想のはるかナナメ上を行く驚愕のラストになっている。
〈長谷川と竹夫は創作の方向性の違いや、原稿料の配分をめぐって揉め、コンビを解消してしまう。長谷川はプロ漫画家になる夢をあっさり諦め、トラックの運転手となる。一方、ひとり漫画家を目指す竹夫だが、プロの道は厳しく、鳴かず飛ばずのまま。数年後、同人誌即売会の出張編集部に持ち込みに行った竹夫は、応対した編集者に対し、『出張編集部』と題するネームを見せる。そして、事件が起きる──。〉
漫画に賭けた青春の〈夢と現実〉、創作の〈喜びと苦悩〉が交錯する、純文学をホーフツとさせる読み応えなのだ。古泉智浩のマンガにはつねにダメ人間が登場するが、その生きざまを否定せず、ユーモアを交えて前向きに描かれているのが特徴だ。『ゲットバック』でも、独自の古泉節による“ダメ人間讃歌”が唄われている。
古泉氏によると、「漫画家マンガ」を描くという構想はずっと持っていたという。ただ、描くものが何もなくなったときの「最後のネタ」として考えていたという。それが、『ルックバック』に触発されて、満を持して登場となったわけだ。
古くは『まんが道』(藤子不二雄)から『アオイホノオ』(島本和彦)、『バクマン。』(大場つぐみ/小畑健)、『stand by me 描クえもん』(佐藤秀峰)、そして『これ描いて死ね』(とよ田みのる)に至るまで──。連綿と続く「漫画家マンガ」の、これぞ令和の最新問題作といえよう。
こいずみ・ともひろ
1969年生まれ、新潟県出身。漫画家。専修大学文学部心理学科卒業。93年、「ヤングマガジン」ちばてつや賞大賞を受賞してデビュー。主な著書に『ジンバルロック』『ワイルド・ナイツ』『うちの子になりなよ ある漫画家の里親入門』など多数。映像化された作品も多く、『青春☆金属バット』(熊切和嘉監督)、『ライフ・イズ・デッド』(菱沼康介監督)、『渚のマーメイド』(原題『ミルフィユ』・城定秀夫監督)、『死んだ目をした少年』(加納隼監督)、『チェリーボーイズ』(西海謙一郎監督)が映画化された。






