午後2時半、男性が母親を連れて現れた。ようやく会えた母親は、長い髪にパーマをかけた小柄な中年女性だった。七分丈の黒いシャツに黒いズボンと喪服のような色合いだが、客商売をしているせいか、ブローチをつけるなど華やかな印象だ。伏し目がちな素振りは、息子が大きな罪を犯したことへの罪悪感からというより、世間の冷たい視線から逃げようとしているように見えた。
男性は素性を明らかにした。Bの3歳上の姉の夫、つまりBにとっては義兄だ。母親に取材に応じるよう説得したのは彼だった。
ぎこちなく座布団に座った母親にピンマイクをつけ、カメラマンと音声マンは後方に退いた。
事件現場の(Cの)お母さんが「何か起こしそうなんです」と…
「15年前に綾瀬で起きた事件について、当時の息子さんとの親子関係はどうでしたか?」
最初に聞くべきことは綾瀬事件についてだと決めていた。
「関係といいますと、会話があるとかないとかですか? 会話は、ほとんどなかったです。家にも寄り付かない状態の。まあ、事件現場のおうちに、ほとんど行っていたという感じ。一回、事件現場の(Cの)お母さんが見えて、何かありそうなんです、何か起こしそうなんですって言ったときに、私は『お宅に伺っても何もできないから、警察に言ってください。お願いします』と申し上げたことはあります」
長く夜の仕事をしてきたためか、母親はマスコミである僕に対しても物怖じせず、きっぱりと話す。「男まさりの性格」という評判のままだった。それにしてもX子さんが殺害される前に、BとCの母親のあいだで事件を予感する会話をしていたことは初めて知る内容だ。
「そのあと結局どうしましたか?」
「事件が起きました」
母親は、答えにくい質問に対しては、短い言葉しか発しない。おのずと質問は畳みかけるような口調となった。
「事件が起きてどう思いましたか?」
「もう、思うような自分が、精神状態が、ではなかったです」
「最初にどういう形で知ったのでしょうか?」
「事件は警察から聞きました」
Bは高校の途中から外泊することが多くなり、事件発覚のときは別の強姦事件や窃盗事件で逮捕されていた。
「息子さんとはすぐに会えた?」
「いえ、会えませんでした」