プロならば、口がさけても「このシーンは本当は快晴のはずだったから、俺がやりたいこととは違うんだよね」と言ってはいけない。やれない、できないは言い訳だ。

私は、急きょ現場で、演出プランを変更した。

カメラもレールではなくステディカム(ベストに付けるカメラ)に変更し、同じ長回しでも味わいを変えた。自由度が高いカメラに変えたことで、荒々しい動きをとらえることができるようにしたのだ。

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すぐさまカメラマンを始め、スタッフと俳優陣に変更の指示を伝えた。

結果的にこのシーンは、「大荒れの海でよかった」という仕上がりになった。

というより、「大荒れの海でなければならない」というシーンになったのだ。

やりたいことがあったとして、湯水のようにお金が使えるとか、スケジュールにゆったりとした余裕があるとか、そんなことはほぼありえない。

クリエイティブで自由そうに見える映画の世界もまったく同じだ。前述の映画『大人ドロップ』にもいえる。

制約があるからこそ「臨機応変力」でカバー

予算が何億もある大作だったら、撮影日を延期して、天気の回復を待ったかもしれない。だが低予算、短納期の映画でそれはできない。

何しろ、たった1日撮影日を延ばしただけで、さまざまな出費がかさむ。

映画の撮影は、たくさんの人が動いている。

たとえば100人のスタッフがいたとする。

地方ロケの場合、1日延びたら100人が泊まるわけなので、100泊分のお金が消える。

当然そこに3食分の食費が加わる。他にもろもろの経費を入れたら、1日数百万円の出費が生じるだろう。

出資者がそこに予算を割いてほしいわけがない。「画面に映るもの」にお金を使ってほしいはずだ。

だからこそ、『大人ドロップ』を見た人から、「海辺のシーンがよかった」という感想をもらうたびに、心から安堵したし、「やったぜ」という気持ちになった。

筋書き通りにいかない今の時代に、何より大事なのは「臨機応変力」だ。

「臨機応変力」とは、あたかも想定外の事態が想定内だったように、組み直していくことだ。