「晴れ用」に書いた脚本、「晴れ用」に準備した機材や設営を、すべて「雨用」に組み直す。
何をどう動かすと効果的に見えるのか、柔軟に組み換える力が求められている。
すばらしい仕事人が常に考えていること
「想定外」を、「想定内」に書き換える。しかもスピーディーに。
と言っても、すぐにはできないかもしれない。私も最初はできなかった。
今、さまざまな現場でどうにか「臨機応変力」を発揮できているのは、準備の段階から、「一番やりたいこと」と「その真逆」を想定しているからだと思っている。
ふつう「準備」というと、やるべきこと、つまり「一番やりたいこと」だけを想定している場合が多い。そこを綿密に掘り下げるのを、準備だと思っている人が多いだろう。
「第2プラン」というのは、「ベストの妥協案」がほとんどだ。そうではなくて、「まったく逆」の案を用意する。
ベスト案をちょっと変えただけのものを「第2プラン」とするのは、プランではない。それはただの「劣化版」だ。
私が出会ったすばらしい仕事人たちは、みな、常日頃から「真逆」のことも念頭に置いている。
「ベスト」と「逆ベスト」、両サイドの選択肢を用意しているから、「想定外」が起きたとき、すぐに対処できるのだ。
子役がぐずって撮影できない場合の対処法
『ステップ』という映画を撮ったとき、こんなことが起きた。
シングルファーザーの父と娘が晩ご飯を食べるシーンで、娘役の3歳の女の子がぐずってしまい、まったく食べてくれなかった。
撮影は中断し、現場に焦りが漂い始めた。
そのとき、とっさに私たちチームがしたのは、撮影をしているその真っ只中の場所で、みんなでふつうにご飯を食べることだった。
「ちょっと休憩しようかー」
そう声をかけて、スタッフも俳優も、その場にいた大人たちが、みなカメラのそばで、何食わぬ顔で弁当を食べ出した。
その雰囲気につられて、娘役の女の子もごはんを食べ始めてくれた。
その様子を、にんまりと撮影したのが、本編に使われたカットである。