2025年12月5日、紀伊國屋書店新宿本店にて、松本清張賞の受賞作家である井上先斗さんと住田祐さんによるトークイベントが開催されました。このイベントは、同店で12月1日から開催されている「松本清張賞フェア」を記念したもので、ゲストMCとして芸人のピストジャムさんも登壇。松本清張賞の魅力や受賞作『イッツ・ダ・ボム』『白鷺立つ』の創作秘話、そして作家としての今後の展望について、熱いトークが繰り広げられました。
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「いい小説だったら認めてくれる」松本清張賞への道
ピストジャム:今回、僕がゲストMCに呼ばれたのは、僕がお二人の松本清張賞受賞作が大好きで、「第一芸人文芸部」の活動で両作を紹介したからなんです。第一芸人文芸部というのは、ピースの又吉直樹さんが立ち上げた吉本興業内の部活動で、自分たちで文章表現したり、書籍をいろいろお勧めしたりして活動をしています。お二人にお話を聞けるのがうれしいです。井上さんと住田さんはお話しされるのは初めてですか?
井上:松本清張賞の贈呈式でちょっとご挨拶だけさせてもらったっていう感じです。面と向かって話すのは初めてかもしれない。
住田:そうですね。あの時、名刺を交換しようと思ったら、僕の名刺がなくなっていて。今日後でお渡ししようかなと思ってます。
ピストジャム:なんか今から将棋を指すぐらいの緊張感がありますね。まずお二人がどういう経緯で松本清張賞に応募されたのかお聞きしていいですか?
井上:私の『イッツ・ダ・ボム』は元々はどこかに応募しようと思って書き始めた小説じゃなかったんですよ。ひとまず書き上げてみて、これはちょっといい小説ができたんじゃないか、せっかくなら新人賞に応募しようと思ってから、どこに応募するかを考えました。私はすごくミステリーが好きで『イッツ・ダ・ボム』もミステリーのつもりで書きはしたんですけど、でも多分これを江戸川乱歩賞に送ったらカテゴリーエラー扱いされてしまう。
それならもう少し広いエンタメ系の賞がいいだろうと。いろいろ考えたときに、まず松本清張の作品が好きだし、清張賞の受賞作も好きなものが結構多いんですね。青山文平さんの『白樫の木の下で』とか、最近だと森バジルさんの『ノウイットオール』もいい作品でしたし。そこで、よし、じゃあ清張賞に挑んでみるかと思ったんです。
ピストジャム:ご自身の作品と賞の相性みたいなのを見計らったということですね。
井上:そうですね。これがすごい松本清張賞的なのかと言われたら多分違うんですけれども、清張賞なら許してくれるだろう、いい小説だったら認めてくれるだろう、みたいな気持ちがあって、清張賞しかないかなと。
ピストジャム:住田さんはどうですか?
住田:私は、もうそもそも、この業界のことをほぼ何も知らず、自分が書こうとしているものが受け入れられそうな賞を、この賞しか知らなかったっていうだけなんです。
ピストジャム:むちゃくちゃ面白いですね。いや、でも分かります。自分は松本清張賞を毎年大注目してるんですけど、理由があるんですよ。まず賞金が500万なんです。僕、吉本興業で芸人してる感覚で言うと、R-1っていうピン芸人の大会が賞金500万円で、M-1が1000万。M-1は多くがコンビで挑むものだから、やっぱり一人頭500万じゃないですか。だから、僕の感覚からしたら、「松本清張賞ってM-1やん」みたいな感覚がすごいあるんですよ。
そしてお二人がおっしゃったみたいに、清張賞は長編のエンターテインメントっていうくくりの賞で、めちゃくちゃ幅広い。『イッツ・ダ・ボム』はストリートアートが主題で、『白鷺立つ』は千日回峰行が主題で、これが続いて受賞するって、なかなか普通の賞でありえないと思うんですよね。そういう意味で、松本清張賞の幅の広さとか懐の深さみたいなのをお二人も感じ取ってたっていうことなんだと思います。
『イッツ・ダ・ボム』と『白鷺立つ』は“似ていて真逆”!?
ピストジャム:住田さんは応募するにあたって、過去の受賞作には触れていたんですか?
住田:一切触れなかったです、あえて。絶対引っ張られるので。歴史小説がこれまで何度も受賞してきているっていう情報は知ってましたけど、それがどういう作品なのかっていうのはあえて読まないまま応募しました。受賞作を読んだら、そういう風に書かないと認められないんだろうなって、性格的に思ってしまうので。
ピストジャム:うわ、面白いですね。井上さんはどうでした?

