児山 何かのインタビューで、波木さんが『万事快調』を書くときに青春ものと犯罪ものを掛け合わせようと思ったとおっしゃっているのを拝見しました。要は既存のジャンルを組み合わせて、新しいものを作るっていうことですよね。映画でも長くある考え方だとは思うんですが、その感覚って書き始めたときからあったんですか?

波木 そうかもしれません。最初にそのコンセプトありきで書き始めました。もしそういうのが小説なり映画なりであったら、僕は面白いと思うだろうなと感じていた気がします。あとは応募した松本清張賞の受賞作が直近では時代小説が続いていたので、真逆の現代ものをやってやろうというのもありましたね。

児山 青春ものって、映画も小説もかなり大量生産されていますよね。原作で美流紅が言うような「漂白された青春のステレオタイプ」に対する強烈なカウンターでありたいみたいな意識はあったんでしょうか。

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波木 もちろんそれはありました。あとは、青春ものは若いうちに書いておきたいなっていうのもありましたね。

児山 ああ、わかります。だから僕、青春ものはやれないって思ってたんです。青春っていうのはやっぱ若者のものだと思うので、おじさんが懐古趣味的に青春を描くことは、罪と言ってもいいかもしれない。それが怖かった。でも波木さんの原作には、いわゆるゼロ年代か、それよりもっと前のポップカルチャーが雑多に入っていたんですよ。21歳の人がそれを書いているってことが、自分が青春映画をやっても懐古趣味にならないという免罪符のように感じられました。確かに若いスタッフと話していても、「奥田民生が好きです」とか、「サザン聴いてます」とか言うんですよ。なんでって聞いたら、「お母さんが、車で聞いてるっす」と。だから要は昔ほど、ポップカルチャーと呼ばれるものが消え去らない前提があるんだと思います。さらに今はサブスクの時代だし、ポップカルチャーは時空を超えている。そう思うとこの映画を撮ることにはポジティブになれました。南さんは劇中に出てくる作品、分かりました?

 いや、私はほとんどわからなかったです。本も読んだことのないものが多かったですね。でもこの映画が、観てくださった方にとって、そういうポップカルチャーに触れるきっかけになるかもしれませんよね。

南沙良さん ©三宅史郎(文藝春秋)

 

児山 そうなったら嬉しいですね。自分でこういうことを言うのもおかしいですけど、でも本当に胸を張って面白いと言える映画になったと思っているんです。現代の閉塞感、ではなく“閉塞感のようなもの”、とあえて表現したいんですが、その空気を打破して突き抜けられるような気持ちに、ちょっとだけ、むっちゃ、とても、なれるかもしれない作品になったなと(笑)。今、青春の只中にいる人にも、思春期の只中にいる人にも、かつてそうだった人にも、あらゆる人に観てもらえたらなと思っています。

 本当にそうですね。監督がおっしゃった通りで、あらゆる人に観て欲しい作品だと私も思います。私の中でもすごく意味のある、大事な作品になりました。お芝居をすることが楽しいと改めて思わせてくれた映画で、それがすごく嬉しかったです。ここ以外のどこにも行けないと思うような息の詰まる瞬間は、日々生活している中で私にはたくさんあって、この映画に参加してそれが救われた気がしました。そういう瞬間のある方はたくさんいると思うので、そんな方に観ていただけたら意味のある作品になるんじゃないかなと思います。

波木 僕も幅広い年代の方に観ていただきたいです。ポップなところもあるし、奥深いところもあるエネルギッシュな作品で、映画を観終わった後の、「いや、良かったな」っていう感覚が一際ある映画だなと思うので。ぜひでっかいスクリーンで見て欲しいですね。

(左から)波木銅さん、南沙良さん、児山隆監督 ©三宅史郎(文藝春秋)

映画『万事快調〈オール・グリーンズ〉』
2026年 1月16日公開
出演:南沙良 出口夏希  
   吉田美月喜 羽村仁成  黒崎煌代 / 金子大地
監督・脚本・編集:児山隆

©2026「万事快調」製作委員会

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