──おばあちゃんからお経を受け取ってきたけど、何に使うの?

「唱えようと思って。母方が浄土宗で、法事のたびに唱えるんですよ」

 想像はしていたが、案の定「亡くなった被害者のために」ではないらしい。

ADVERTISEMENT

祖母の話に対してきっぱりと「噓ですね」

 私は話の矛盾点を解消すべく、“家族から見た真実”を語ってみることにした。

──お母さんは、一朗さんが一宮の祖母から酷い目に遭わされていたことを知らなかったみたいだよ。

「そんなことはないです。だって私の部屋に冷蔵庫を持ってきたのは母だし、ホームレスの炊き出しに連れていってくれたのも母です。知らなかったということはありえません。中学のときに、父に包丁を投げたときも『ご飯を食べさせてもらえないから少年院に入ろうとした』と話しました。そのとき母から『1日500円の食事代をあげるからやめてくれ』と言われてます。結局、3日間しかくれなかったけど」

 いきなり話が食い違ってしまい、私は慌てた。確かにそうだ。「自分でご飯を食べる」という状況がなければ、息子の部屋に冷蔵庫を置く必要はない。とはいえ、あの母親が噓をついていたようにはとても思えない。

「おばあさんは、なんと言ってました?」

 今度は小島が質問してきた。私は話をメモするため、ノートに目を落としていたが、顔を上げると、小島は一瞬険しい表情を見せていた。しかし、いつものように、目が合うと何でもないような余裕の表情に変わる。

──いいことばっかり言ってたよ。「このシャンデリアの電球もいっちゃんが換えてくれたの」とか嬉しそうに。おばあちゃんには、優しかったんだね。

写真はイメージ ©moonmoon/イメージマート

 すると小島は、溜息をついて言った。

「あれも酷い話ですよ。祖母が電球換えてって言うから、これは工具がないとできないから工具を買ってと言ったら、経費を掛けずにやってくれという。そしたら伯父さんが、工具を持ってきて取り換えた。『やっぱり伯父さんがいないとダメね』とか祖母が言うんです。私は工具がないからできないだけで、工具があれば、そりゃできますよ」

──え? じゃあ、電球を取り換えたのは伯父さんってこと?

「そうです」

──おかしいな。おばあちゃんは、いっちゃんが自分から「僕が取り換えてやるわ」って、やってくれたと言ってたけど。

「噓ですね」

 小島はキッパリと言った。私の頭は、酷く混乱した。まったく違うどころか、小島の話では祖母が作り話をしていることになる。しかし、祖母が噓をつく人間だとはとても思えない。頭は非常にしっかりしていたから、記憶違いということもないだろう。

 では逆に、小島が噓をついているのか? お母さんは「一朗の話は全部噓」と断言していたが、まさか本当に!?

──おばあちゃんは、3月16日の最後の電話でも、「養子縁組を解消する」とは言ってないって言ってたよ。

「それは確かに言ったんですよ」