2018年6月に発生した東海道新幹線殺傷事件。犯人の小島一朗を取材する過程で、『家族不適応殺 新幹線無差別殺傷犯、小島一朗の実像』(角川新書)の著者インベカヲリ★氏は彼の祖母と母親に接触した。

 孫の優しい一面を語った祖母と、「息子の苦境を知らなかった」と主張した母。しかし、その言葉を小島に伝えると、彼は冷ややかな反応を示し、家族の証言を真っ向から否定し始めた。果たして嘘をついているのは誰なのか――。同書の一部を抜粋して紹介する。

走行中の東海道新幹線「のぞみ265号」の車内で乗客3人が切り付けられる事件が発生し、車両が停車中のJR小田原駅改札から出てきた捜査員ら=10日午前0時53分、神奈川県小田原市 ©時事通信社

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誰かが噓をついている

 岡崎の祖母から見た小島一朗は、“おばあちゃん想いの優しくて良い子”だった。母親の意見も、“子どもの頃から正義感が強かった”である。そして祖母も母親も、驚くほど人当たりが良かった。少なくとも母方の家庭には、外側から見る限り、愛情の欠如は感じられない。

 小島は独りよがりで色々と勘違いしていることがあるのではないか。ほんの少しのボタンの掛け違いでこうなったのではないのか。そんな気持ちが頭をよぎる。

 愛知県での取材を終えてから約20日後の2019年7月16日、私は家族と会ったことを伝えるべく、拘置所へ向かった。

 この日は、面会4回目。看守とともに入ってきた小島は、いつも着ているサイズの小さいシャツに、メガネをかけていた。表情はなんだか鬱々としており、相変わらずこちらを少し警戒している様子だ。

 私は場を和ませるべく世間話を適当にした後、岡崎で感じたことを伝えてみた。

 ──お母さんとおばあちゃんに会ってきたよ。親族が経営してる幼稚園が凄く大きくてビックリした。あそこで園児を狙おうとは考えなかったの?

 すると小島は、パッと目を見開き、すぐに反論してきた。

「なんで罪のない幼児を襲わないといけないんですか!! 私は、子どもでも老人でも、男でも女でも、新幹線の隣に座った人をやるつもりでいたけど、わざわざ幼児に限定する理由はありません!」

 まるで自分には真っ当な倫理観があると言いたげである。それを言うなら被害者3人も何の罪もないはずだが。

──宅間守の「附属池田小事件」を参考にしたと言っていたし、子どもを狙う可能性もあったのかなと思ったから。

「宅間に影響を受けたのは、『死刑になるためには3人殺さないといけない』と言っていたので、なら私は2人までにしようと思ったという部分だけです」

 最初は表情が沈んでいた小島だが、喋り出すと楽しそうだ。人と話すことは基本的に好きなのだろう。