──警察を恨むのはわかるけど、それが関係のない人に向くのはわからないよ。
「木曽署の警察官による法律を守らない不法な暴行が、そのまま何の罪もない民間人に対する暴行になったんです。私だって、刑務所に入るという夢を叶えずに生きていけません」
小島の答えは初めから全て決まっている
いつもと同じ調子で話す小島に、私はしばし閉口した。会話が途絶えると、小島の表情はよりこわばる。空気が硬いと本音はますます見えなくなるので、私は慌てて言葉を繫いだ。
──刑務所に入りたいと思うようになったのはいつから?
「小さい頃からですね。小学生くらいから。興味があったので、本やテレビで知識を得ていましたが、母が勤める貧困者シェルターにも元受刑者がいましたので、より中の生活を知るために話を聞いて勉強していました」
──実際の体験者から刑務所生活の話を聞いても、マイナスイメージは抱かなかったんだ?
「そうです」
──刑務所の生活スタイルが自分に合っているということ?
「そうです」
──でも、この事件をきっかけに続々と「刑務所に入りたい」という犯罪が増えたら困るよね。
「そうなんです。私のような人が増えても困る。だから刑務所が快適な場所だということをあまり書かれると困ります」
小島は、少し困ったというような顔で言った。どうやら本当に、そうしたことが起こりうると感じているらしい。
──死刑になったらどうするの?
「死刑になったら諦めます。どのようなことがあっても控訴はしません。どんな刑でも受け入れます。有期刑なら再犯するし、どんな判決が出てもやるべきことは決まっているんです」
──それだけ計画性があって行動力もあるなら、一般社会にいてもいろんな可能性があったと思うけど。それよりも刑務所がいいの? そこまでの絶望がわからないな。
「絶望じゃなくて希望です。子どもが宇宙飛行士やサッカー選手になりたいと思うのと一緒で、私は刑務所に入りたかった」
小島は得意げな顔で言った。悲壮感を一切見せないところは、プライドの高さなのか。
──昔から家族の前で「刑務所に入りたい」って言ってたわけだよね。それについて家族で話し合いになったりはしなかったの?
「家出して美濃加茂署で保護された後、岡崎の家でみんなで話し合いをしたことはあります。私が『刑務所に入りたいけど、無理なら代わりに精神病院に入りたい』と言ったら、祖母から『3000万円を相続させるからそれで入院費を払う』と言われたけど、約束を破られて精神病院を退院することになったんですよ」
──「刑務所に入りたい」ということ、そのものについて話し合ったことは?
「インベさんが理解できないように、家族も理解できないんだと思います」
意外にも、そうした「普通の人から見た自分」も客観視できているようだった。
とはいえ、小島の答えは初めから全て決まっている。私は終始、小島のプレゼンを聞かされているようで、本音が見えてこないことがもどかしかった。もしかすると、踏み込むだけの「心」などないのかもしれない。再び、そんな気持ちが頭をよぎる。
面会を終え、私は頼まれていた岩波文庫の『中世騎士物語』と『ギリシア・ローマ神話付 インド・北欧神話』(ともにブルフィンチ著、野上弥生子訳)を差し入れて帰った。
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