暗いのに剽軽で、妙に情に厚い「蘆屋道満」とは?

——「陰陽師」には、晴明のライバル的な人物として蘆屋道満が何度も登場します。獏さんはなぜ、蘆屋道満がお好きなのでしょうか?

 そうなんです。僕、道満が大好きなんですよ。ちょっと暗くて、ズルいところもあって、お酒も好きで、妙に人情にも通じていて……。書いてるうちにどんどん愛着が湧いて、好きになっちゃったんですよね。特に晴明にやらせちゃいけないことは、道満にやらせています。

 僕の中の裏設定では、道満は晴明の「裏」なんです。道満と晴明は能力が同じだし、世の中なんてどうでもいいと思っているところも、権力者が嫌いなところも同じ。

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©文藝春秋

 ただ一点違うのは、晴明には傍らに博雅がいるということです。博雅がいるから、晴明は道満にならずに済んでいる。だから道満と晴明は妙に通じ合っているんですよね。酒を飲んでいる場面でも、博雅は「ああ、月が綺麗だなあ」とか言っちゃうけど、晴明と道満は何も話さなくても通じているような……そういう関係にしています。

癌にならなかったら、あの話は書かなかった

——今月刊行される文庫『陰陽師 烏天狗ノ巻』に収録されている「梅道人」について質問です。この「梅道人」での晴明と博雅の会話が、「陰陽師」ファンの間で「二人の関係が一歩進んだ」と話題になりました。このお話は、奥様とのエピソードが元になっていると伺いました。

 少し前に、僕は癌を経験しました。今も定期的に検診に行っています。

 前々から「カミさんと自分と、どっちが先に死ぬんだろう」と考えていたんですが、先に死ぬのは僕だろうと思ってたんです。僕の方が年上だし、女性の方が長生きなので。でも「俺が死んだら彼女はどうなるんだろう。俺は後から死ぬ方がいいかな」と思い始めたんです。

1月5日発売の『陰陽師 烏天狗ノ巻』(文春文庫)

 病気で辛いとき、原稿も書けないし、ネットフリックスを観るだけの日々だったので、奥さんがいてくれて本当に良かったと感じました。だから彼女に何かあったときに、自分がしてもらったことをこの人にしてあげたい、と思ったんですね。それには、彼女より長生きしなけりゃいけない。

 そういったことを、晴明と博雅で書きたくなりました。作中の博雅の台詞には、自分の体験を少しだけ混ぜています。だから「梅道人」は、癌になっていなければ書かなかった話です。

 その時代の自分の経験や想いが、物語にまぎれるようにして、一冊に一本くらい入っていますね。

——今年の40周年イヤーを記念して、シリーズ最新刊の単行本・文庫本が発売になったほか、シリーズ第1巻~第3巻の文庫版に限定のダブルカバーがかかりました。最後に、読者の皆さんへ一言お願いします。

 40年、よく続いたなと思います。

 今回、初めて文庫の表紙の絵が変わりました(※)。もともとの村上豊さんの絵は大好きなんですが、編集の方が「どうですか」と今回のイラストの方を提案してくれました。

「陰陽師」文庫の第1巻~第3巻にかかる限定ダブルカバー

 晴明の怪しい目つきがあって、すごくかっこよかったですね。

 僕も本を買うときに、表紙が選ぶときの大事な要素になるんですよ。新しい読者の方にも届いてくれれば嬉しいです。

※「陰陽師」第1巻~第3巻にかかる限定ダブルカバー。2026年1月9日(金)頃より全国書店店頭で限定発売します。なくなり次第終了となりますので、ご了承ください。

陰陽師 氷隠梅ノ巻

夢枕 獏

文藝春秋

2026年1月9日 発売

陰陽師 烏天狗ノ巻 (文春文庫)

夢枕 獏

文藝春秋

2026年1月5日 発売

最初から記事を読む 「ベッドシーンを毎回入れてください」と言われて…〈陰陽師〉はバイオレンスとエロスの時代に始まった