ただ、保護主義に頼った戦後は国際競争力を失い、冷戦終結以降は優れた学生ほど金融やITを志向し、製造業は選ばれなくなった。逆にいえば、そこに高張力鋼や電磁鋼板の分野で世界一の技術力を誇る日鉄が入り込む余地があった。
日鉄品質を米国で実現するという難題
とはいえ、提携の成否はまだ五分五分だ。「トヨタのレクサスのボディに提供する鋼板は、その表面に映った顔に歪みがあれば作り直し」というのが日鉄品質といわれる。このクラフトマンシップを注入するのは大変な難題で、「技術者同士で気の遠くなるような対話の積み重ねが必要になる」と、ある日鉄関係者は語る。
よい暮らしを渇望する新興国の若者ならまだしも、先進国の労働者に外来の精神性を体得する意欲をもってもらうのに、ナショナルフラッグの誇りを傷つければ続かない。米国にとって日本は技術を授けた相手でもあり、50人規模で送り出される日鉄の派遣部隊は、おそらく胃の痛くなるような作業に挑むことになる。
さらなるM&Aは?
さらなるM&Aについて、橋本氏は「頭の中にはある」と発言し、その条件に、「需要が確実に伸び、かつ当社の技術力が生かせる高級鋼の需要があるところ」を挙げた(日経新聞7月8日付)。
欧州の鉄鋼大手なども買収先の候補に挙げられてきたが、EU市場は横ばいで自動車販売も伸び悩む。インドは国が粗鋼生産を倍増させる方針で追加投資もあり得る。足下に目を転じれば、過剰生産を続ける中国が日本への攻勢を強める可能性も指摘されている。地球儀を俯瞰するような鉄のゲームは、国際秩序と共振しながら、めまぐるしく変動している。
◆このコラムは、政治、経済からスポーツや芸能まで、世の中の事象を幅広く網羅した『文藝春秋オピニオン 2026年の論点100』に掲載されています。


