アメリカにとって「最大級の抹殺対象」

 チェチェンやオザークといったほかの山岳地帯の民族と同じく、ワ人も独自の生き方を好む。その土地は、国際的には完全にミャンマー(ビルマ)に含まれるが、ワ州連合軍(UWSA)と呼ばれる部族的権威が支配している。

 UWSAは法律を作り、祖先伝来の土地を守り、道路を建設し、税金を集め、運転免許証の発行さえもしている。つまり、あらゆる意味において政府だが、近年ワ人を目の敵にしている帝国アメリカにとって、UWSAは「首領」たちの軍閥にすぎず、「麻薬王」たちが支配する「危険な犯罪組織」だ。

 誰にとって危険か? アメリカ人にとってだ。ワ人について聞いたこともないほとんどのアメリカ人にとっては驚きかもしれないが、アメリカ麻薬取締局(DEA)は、ワ人が「ここアメリカで、犯罪、暴力、深刻な社会的損害」を生み出していると主張する。

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写真はイメージ ©shironagasukujira/イメージマート

 たしかに違法薬物はUWSA最大の収入源である。長年にわたってワ人の土地で生産された麻薬が何トンも闇市場に流れ、密売人によってアメリカに持ちこまれてきた。よってDEAはUWSAを最大級の抹殺対象とし、ワ人による統治システムを完全に「破壊し除去する」ことがアメリカの公然たる目標となっている。

ハイテク兵器も所有する正真正銘の“国家”

 ここに問題がある。UWSAは密林に生息するただのマフィアではなく、ワ州と呼ばれる人口50万人以上の正真正銘の民族国家を運営しているからだ。独自の学校、電力網、国旗や国歌まである。国際連合に認められていないため、公式の地図には国家として記載されないが、その領土は約3万平方キロメートルで、UWSAはオランダに匹敵するほどの土地を支配している。

 ワ州には3万人の兵士と20万人の予備兵がおり、スウェーデンやケニアの軍隊よりも規模が大きい。ワ人は迫撃砲やドローンなどのハイテク兵器も保有し、航空機をミサイルで撃ち落とすこともできる。UWSAの火力に比べれば、メキシコの麻薬カルテルなどストリートギャングのレベルだ。

 ワ人が軍事力を蓄えているのには理由がある。仮想敵国がアメリカだけではないからだ。ワ人はチベット人やウイグル人といった少数民族と同様に、中国との国境地帯に住んでいるので、何をするにも中国政府からの厳しい管理という脅威にさらされる。

 ではなぜワ人による「自由チベット」運動のようなものが生じないのか? それはワ人がみずから自由を獲得したからだ。しかし西洋人の目から見ると、それはまちがった方法で獲得された──違法薬物を生産し、その利益で武器を購入して、外部者から自分たちの土地を守ることで。

 この問題は避けて通れない。ハイチが砂糖、サウジアラビアが石油で成り立っているように、ワ州はヘロインとメスで成立している。UWSAは東南アジアにおける麻薬取引の中心にいて、毎年メスだけで600億ドルを稼ぐ。ほとんどの「本物の」国家の経済規模をはるかに上まわっているのだ。

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