「熊と共生できる」と信じ、危険な距離まで踏み込んだ男がいた。専門的な訓練も安全対策も顧みず、クマと触れ合う姿を発信し続けた“自然系インフルエンサー”は、2003年秋、アラスカのキャンプ地で恋人とともに命を落とす。自然への敬意と過信の境界線は、どこで踏み越えられたのか。宝島社ムック『アーバン熊の脅威』より、その最期を辿る。(全2回の1回目/後編を読む) 

写真はイメージ ©getty

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クマを舐めすぎた男

 ニューヨーク生まれのティモシー・トレッドウェルは大学時代、アルコールや薬物の依存症となる。しかし、友人の勧めでアラスカへ渡ると、大自然のなかで子供の頃から好きだった動物たちと接するうちに依存症を克服していったという。

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 それから熱心に取り組んだのがハイイログマの研究だった。とはいえ専門的な勉強を積んだわけでもないトレッドウェルの熊への接し方は非常に危ういものだった。一時期共同で仕事をしていたロシアの研究者は、トレッドウェルが基本的な安全対策すら行っていないことを批判していた。

 トレッドウェルはまるで熊を恐れないかのように接近し、時には熊の体に直接触れたり、子熊と遊んだりすることもあったという。

 トレッドウェルは、2001年頃からテレビへの出演機会を得て、そのたびに動物保護を訴えた。そのことにより、日本でいうところの畑正憲(ムツゴロウさん)のような動物愛好家、環境運動家として、北米でその名を知られるようになっていった。