「この時期、熊は人を襲わない」──そう信じてテントに残った写真家は、なぜ命を落としたのか。1996年、カムチャツカ半島で起きた「星野道夫ヒグマ襲撃事件」。その背後には、地元テレビ局による“餌づけ”という衝撃の事実があった。宝島社ムック『アーバン熊の脅威』より、一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/最初から読む)

写真はイメージ ©getty


熊を撮影しようとした日本のカメラマン

 1996年7月25日、TBSのテレビ番組『どうぶつ奇想天外!』の撮影のため、動物カメラマンの星野道夫とTBSスタッフらはロシアのカムチャツカ半島へ渡った。

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 撮影予定地に入ったのは同月27日のこと。撮影隊が基地とする2階建てのロッジから離れたところに星野と、撮影隊とは別に訪れたアメリカ人写真家がそれぞれテントを張って、そこで野生のヒグマの撮影にあたることになった。

 その夜、いきなり熊が現れる。最初に気づいたのはアメリカ人写真家で、熊は食糧庫の屋根の上でひとしきり暴れたあとに、星野のテントへ近づいていった。

 写真家からの知らせで小屋からガイドがやってきて熊除けスプレーを噴射すると、熊は退散していった。

 撮影隊は星野に対し、安全のため小屋で寝泊まりするよう勧めたが、星野は「この時期はサケが川を上ってエサが豊富だから熊は人を襲わない」と言ってテント生活を続けた。

 一方、写真家は危機を感じて近くの塔の上に移っていった。