人類の起原について思いを巡らせるのは楽しい。いろいろな議論はあるが、大まかな見取り図としては、今から700万年前、チンパンジーと分岐して最初のヒト属が出現した(サヘラントロプス)。
その後、ラミダス、アウストラロピテクスなどの猿人を経て、ホモ・エレクトス(以前はピテカントロプスと呼ばれた)が生まれた。以降、ホモ属はいくつかの種に分岐した。ホモ・フロレシエンシス、ホモ・ハイデルベルゲンシス、ネアンデルタール人、デニソワ人などである。
いまからおよそ30万年前、ホモ属のひとつとして現生人類、つまりホモ・サピエンスが生まれた。しばらくのあいだ、複数のホモ属(本書では“ホミニン”と称される)は併存していた。しかしなぜかホモ・サピエンスだけが生き延びた。
しかもアジア、アメリカ、オーストラリア、太平洋諸島に達した。つまり全地球規模に生息域が広がった。本書ではこの理由が考究される。鍵は集団力である。
ホモ・サピエンスは他のホモ属よりも、より緊密に集団を作り、他の集団とも連携した。この集団力が昂じて、ホモ・サピエンスは他のホモ属を殺戮してしまったのかもしれない。
集団力は現在80億の人口を生み出した。が、将来展望に関して著者の指摘は衝撃的である。人類の繁栄はすでにピークを迎え、絶滅に向かっているというのだ。リミットは1万年以内。理由はあまりに増えすぎたせいだ。資源の枯渇、気象変動、環境汚染がもたらされた。
さらにホモ・サピエンスが極めて均質な遺伝子を共有しているがゆえに、感染症や疾患に対して極めて脆弱であり、何か突発的な事象がカタストロフィーをもたらす可能性がある。新型コロナ禍はたまたまおさまったにすぎない。兆候は日本の現状に如実に現れている。日本の人口は100年後には半減、2000年後には消滅する。
では絶滅を回避するにはどうすればよいのか。著者は今こそ行動を起こさなければならないと提言する。ひとつは月や火星への脱出と新コロニーの形成、あるいは食料を増産するための光合成システムの改良もしくは人工的な創出。いずれもSF的発想だが、対策をしないとただ漫然と絶滅への道を進むしかない。
示準化石というものがある。地層の地質年代を言い当てるための指標となる化石のことである。三葉虫は古生代(約5億〜3億年前)の、アンモナイトは中生代(約2億〜0.6億年前)の示準化石である。示準化石には条件がある。現生しない生物の化石であること。分布領域が広く多数発見できること。短期間のみ栄えた生物であること。急激に繁栄した種は、それゆえにこそ急速に滅びに向かう。このままでは、何億年か先、人類が非常に優れた示準化石となることは間違いない。
Henry Gee/1962年、ロンドン生まれ。ケンブリッジ大学にて博士号取得。専門は古生物学及び進化生物学。科学雑誌『ネイチャー』生物学シニアエディター。前著『超圧縮 地球生物全史』は王立協会科学図書賞受賞。
ふくおかしんいち/1959年、東京生まれ。青山学院大学教授。著書に『生物と無生物のあいだ』『ツチハンミョウのギャンブル』他。
