対台湾のプロパガンダとの類似性

 もっとも、大部分の動画のクオリティは極めて粗雑だ。中国語のものが圧倒的に多く、当事者である沖縄の県民世論が、これらの動画を通じて「親中的」に変わるとは考えにくい。英語字幕にしても、そもそもこの手のショート動画を通じて沖縄の情報収集を活発におこなう英語圏の人はさして多くないと思われ、やはり実効性には疑問符がつく。

 一見すると、誰向けの発信で、どういう効果を期待しているのかがさっぱり意味不明な代物ということだ。

 実のところ、これと似たフェイク動画を用いた中国の工作は、過去に他国でも観察されている。それは台湾だ。私は2023年1~2月に2回、2024年1月にさらに1回、台湾で認知戦の取材をおこなったことがある。認知戦とは、人間の認知を誤らせるディスインフォメーション工作のことだ。

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 私が2024年1月にシンクタンクの「台湾AIラボ」に取材したところでは、「台湾は世界で最もディスインフォメーション工作にさらされている場所」である。同ラボによると、当時の蔡英文総統のフェイスブックページに寄せられるコメントの3分の1は中国発のニセ情報とのことだった。台湾のネット空間に盛んにコピペ爆撃されている怪しげな情報の根源は、なんとたった3つのアカウントに集約されるのだという。

台湾AIラボでの記者会見の様子。台湾のフェイスブック上で流布された怪しい言説の実例が紹介されている。2024年1月10日筆者撮影。

 もっとも、この時期に私が観察した認知戦の実物には、かなり粗雑なものが非常に多く含まれていた。たとえば2023年、蔡英文政権下で「インド人移民が大量に台湾へ流入し、その結果、婦女暴行や犯罪が激増する」といった扇動的な内容の動画が大量に流布されたのだが、用いられていた字幕は台湾の繁体字ではなく中国大陸の簡体字(注.台湾と中国では漢字の形が違う)。これを見て騙される台湾人が多いとは思えない。フェイスブックに書き込まれるコピペ爆撃についても同様の粗雑さだ。

 もちろん、この取材以降にAIを用いた翻訳や動画生成の能力が飛躍的にアップしたので、近年の工作の精度は当時よりも向上しただろう。また、台湾は二大政党制のもとで社会分断が深刻な国なので、たとえ中国由来のデマであっても政治的党派性からシェアする人もおり、意外と効果が出る場合もあって……と、台湾特有の事情も存在したりする。

 ただ、「中国の認知戦工作は量が膨大だが粗雑」「相手側に合わせたローカライズをする発想が乏しい」という特徴は、今回の沖縄に対するフェイク動画の氾濫と、共通する要素として指摘できる。

次の記事に続く なぜ中国のプロパガンダは「低クオリティのゴミ動画」ばかりなのか? “沖縄は中国領土”フェイク動画の背景に潜む「身も蓋もない現場事情」