日本の女子高生が笑顔で語る動画に「琉球は中国の一部」という驚きの字幕が被せられる――。今、SNS上で急速に増殖している「沖縄フェイク動画」の数々。その出来栄えは、一見して偽物とわかるほど稚拙で、ターゲット層すら不明瞭なものばかりだ。

 なぜ中国側はこうした「ゴミ動画」を量産し続けるのか。過去のプロパガンダ事例から浮かび上がる“身も蓋もない現場事情”とは?(全2回の2回目/最初から読む

習近平国家主席 ©時事通信社

 ◆◆◆

ADVERTISEMENT

なぜ低クオリティなのか

 中国側でフェイク動画を作っている主体が、具体的に誰なのか、中国のどの部門なのかを明確に断言することは困難だ。ただ、台湾側の複数のシンクタンク関係者からの聞き取りや、海外の安全保障関連のレポートや報道から得た情報を総合する限り、これらは中国側の省や市といった地方政府レベルでなされている可能性があるという。過去の類似した事例から考える限り、これは妥当な指摘だと考えていい。

 たとえば、ちょっと古い話だが、ゼロ年代から2010年ごろにかけての中国国内のネット掲示板には、当局寄りの世論工作をおこなうネット工作員(網絡評論員。通称「五毛」)が存在した。彼らの多くが地方政府のプロパガンダ部門(市の党宣伝部など)と連携する機関によって雇用されていたことは、当時の中国国内の報道でも明らかにされている。

「五毛」という通称も、当時のプロパガンダのポスト1件あたりの報酬が0.5元(5毛銭。現在のレートで約10円)だったことでついた名称だ。その延長線上で、現在は海外に向けたプロパガンダのSNS投稿や動画のポストがなされていると想像するのは、さほど突飛な話ではない。

 事実、現在の沖縄フェイク動画にしても、極めて低レベルな出来であることを考えれば、現場で制作しているのは「市」程度の資金・組織のもとで雇用された人員だと考えるのがもっともしっくりくる。あえて著者の地元の地名に置き換えれば、滋賀県大津市とか彦根市くらいの自治体(注.中国の場合は「市政府」)の外郭組織から格安バイトで雇われた、非熟練者のネットオペレーターの仕事、というイメージだ。

 沖縄フェイク動画が、なぜか中国語のものばかりで、ターゲット層がさっぱりわからない……、という疑問も、発信者たちがこうした人たちだと考えれば氷解する。おそらく、彼らのターゲット層は沖縄の人たちではなく、さらに言えば中国の一般市民ですらない。本当のお客様は、「上」(正確には彼らを管理する役人のさらに上にいる偉い人)である。