パートナーの“裏切り行為”に激昂

 彼女と同棲しているパートナーは、女性地下アイドルの「推し活」をしているという。したがって、【サナ】と「推し活」現場をともにすることはない。「推し」の対象こそ違えども、いわば同好の士。相互フォローの延長上にある関係。彼女は、そう納得している。

 だが、一般的な恋人関係と同様、あるいはそれ以上にパートナーに対する独占欲や嫉妬心は芽生える。相手の趣味について「チクチク言うことがある」という。

「その人、私に嘘をついて地下アイドルのライブに行ったことがあるんです」

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 彼女は語気を強める。どうやって嘘に気づいたのか。

「『推し』のアイドルと撮影したチェキを見つけたんです。チェキって、日付を書き入れるじゃないですか。その日付というのが、私がめちゃくちゃ落ち込んでいた日なんです。かまってほしくて仕事終わりに『早く帰ってきてほしい』って伝えていたんですよね。私には『ごめんね。いまレジのお金が合わなくて、ちょっと遅くなるかも』って返事が来ていました。私、普段はあんまり怒ることがなくて、声を荒げることもないんですけど、そのときは自分で笑っちゃうくらいに怒ってました。それで、チェキを切り裂いたんです」

 切り裂いた。そう簡単に言ってのけるが、チェキフィルムは見た目以上に頑丈だ。勢いに任せたとしても、おいそれと素手で引きちぎれるものではない。

血まみれのチェキをSNSにアップ

「そうなんですよねえ。ガーッてちぎろうとしたら、全然切れなくて。むしろ、自分の手の皮膚が切れて血が出ちゃいました。だからハサミでジョキジョキ切り刻んだんです」

血まみれのチェキをハサミで切り刻んだ ©︎アフロ

 切り刻まれた血まみれのチェキを見ていると、少し冷静になれた。

「これはあまりにもメンヘラムーブすぎないか、と。そう思ったら、なんだかおもしろくなってきちゃいました。それでスマホで撮影して、写真をSNSにアップしたんです。でもそれは、相手のことを貶めたいとかそういうことじゃなくって、自分のフォロワーに対して『ちょっとおもしろいことがあったから聞いてよ』くらいの、愚痴るような感覚だったんです」

 感情を抑制できず衝動的な行動を起こし、歯止めがきかない。ある程度、客観視できている点は幸いだが、なぜ自分がそこまで傷ついたのか、その要因にまでは思い至っていないのかもしれない。「かまってほしい」は自分の都合なのに、その日に「裏切られた」と彼女は感じた。これはパートナーに大きな愛着を抱くようになり、「こうあってほしい」という理想を抱くようになったから、と理解するのが妥当だろう。期待の裏返し、とも取れなくはない。少なくとも現在の彼女は、「推し」の後追い自殺を図った頃からは、変わりつつあるように思えた。

「推し」という病 (文春新書)

加山 竜司

文藝春秋

2026年1月16日 発売

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