「離婚ゼクシィ」が欲しかった

金原 『マリエ』を書いた段階で、千早さんはもう離婚されていたんですか。

千早 えーとですね、今日のためにいろいろと思いだしてきたんです……。『マリエ』は二〇二二年にしていた連載なので、既に離婚は成立していますね。コロナ中だったんですが、離婚をきっかけに長く住んでいた京都から東京に引っ越して一人暮らしを始めて。さっきも言った当時の担当編集者から「離婚したことで感じた社会的な葛藤とか、手続きをする上での男女の差別とか、そういうことは記録しておいたほうがいい」と言われて『マリエ』を書いたんです。

 

金原 離婚して、名前を変えなきゃいけない煩わしさとか。

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千早 私は結婚したときに名字を変えていなかったので、その部分では苦労してなくて。とはいえ、正直「離婚ゼクシィ」みたいなものがあればいいのにと思ったのは覚えています。

金原 あー、わかります。離婚のハウツーを新書とか実用書じゃなくて、もっとフランクに読みたいですよね。

千早 結婚のときは手順とか用意しておくべきものを解説してくれる本がいっぱいあるのに、離婚のときにはそういうガイドがあまりない。私は離婚と同時に同居を解消して引っ越すことになったので、どのタイミングで転居届を出して、住民票はいつ変えたほうがいいのかとか、パスポートとか……かなり大変でした。先にこっちの手続きをすればよかったと後から気づくこともあって。これでもし名前を変えることになっていたら、さらに面倒だったと思います。あと私の場合、家族との問題が大きかったんですよね。

 結婚するときって向こうのご両親に挨拶するでしょう。

金原 私はしませんでした(笑)。

 

千早 それはまあ、人それぞれですもんね(笑)。私の場合は、親から「何も言わずに離婚するのか」と言われて向こうのご両親に手紙を書きました。

金原 えーっ!?

千早 夫の親なのだから夫が報告すればいいとは思ったんですけど、一般社会のルール的にどうなのかがよくわからなくて。だから「離婚ゼクシィ」があればなって。

 まあでも、そもそも私は「ゼクシィ」も読んだことはないんですけど(笑)。小学校ぐらいの頃から「一生結婚しない」とずっと言ってたので。

金原 えー、そうなんですね。

千早 でも結局結婚して、離婚して、二年前に再婚したんですけどね。またしたよって感じで(笑)。

金原 同じ状況なので私もよく聞かれます。「離婚したのに、もう一回結婚したいと思うものなの?」って。でも、この人との結婚と、あの人との結婚は全く別物だしなって思っています。

千早 本当にそう思います。ただ私は、結婚は家族観や世間体といった社会的なものが絡んでくるイメージを持っていたので、前の結婚と今の結婚は別と言いながらも、関係性という点においてだんだん似てくるんじゃないかという怖さはありました。

後編へ続く)

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次の記事に続く 離婚の瞬間、知られざるその人が見えてくる――小説家・金原ひとみ×千早茜「私たちの離婚と再婚」