離婚の瞬間、その人が溢れ出す

金原 料理のシーンがめちゃくちゃよかったです。聞いたこともない料理がたくさん出てきて。由井君と一緒に生地を練って作る料理とか。私、料理は好きなんですけど、凝ったものは全然作らないのですごく面白かった。

千早 でも、最近の金原さんの小説でもわりと凝った料理が出てきましたよね。あ、あれだ。『マザーアウトロウ』で、彼氏の蹴人君が家で作ってた……。

金原 あ、エンパナーダ。

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千早 それです! 何だこの料理はと思って調べました。

金原 エンパナーダ、実際に生地から作ってみたんですけど、マジで時間がかかり過ぎて(笑)。バカみたいな思いをして作ったので、この経験を何かに使わないとと思って小説に書きました。

 

千早 エンパナーダってどこかで食べられますか。

金原 フランスにいた頃に、レバノン系とかメキシコ系の料理屋さんではよくメニューにあったんです。スパイシーで、生地がちょっと独特な、サクッ、ほろっとした、クッキーに近いような食感で。

千早 食べてみたい。私、『わるい食べもの』という食エッセイも書いてるんですけど、そこでは食に関する呪いみたいなものを外していきたいという野望があって。私は、いわゆる「ていねいな暮らし」が好きなんです。

金原 はい。伝わってきます。

千早 でも、「ていねいな暮らし」って、世間では「(笑)」がつけられるような扱いを受けるときがあって。そのことにずっとカチンときてたんですけど、コロナ中ってそれがちょっと変わったんですよね。

金原 みんな、料理道具とかを調え始めて、ホットケーキミックスとかベーキングパウダーが売り切れましたよね。

千早 そうそう。家にいることが増えたからか、「こんな手のかかる料理作っちゃった」とか、「ワイングラス揃えちゃった」とか、みんな家でできることを楽しみだした。

金原 あとコロナって、人の内面をかなり浮き彫りにしたと思いませんか? 「この人、そういう人だったんだ」って。

千早 なりました、なりました!

金原 ウイルスをどれくらい気にするかも人それぞれで、「え、あなたがそんなに気にするの?」とか、意外な側面がたくさん見えた時期だったなと。

千早 あまりコロナ対策をしてない人に対して、対策してる人が怒るとか。

金原 ありましたね。逆に「絶対にマスクはつけない!」と言い張る人もいたし。

 そういう意味で、コロナも離婚も、どちらも人をむき出しにさせる点で似ていると思うんです。「自分はこう思う」をどうしても押し付けなきゃいけない状況なんでしょうね。

千早 なるほどー! その見方はすごく面白いです。

金原 たくさんの人から話を聞いたので、いろいろな離婚の形があることもわかった。別れた今でも仲良しっていう人もいれば、相手のことを「死ね」と言ってる人もいる。親権とかお金とかメンツとか、気にするところもまちまち。個人の結婚観の違いが、離婚によって明らかになる、みたいな瞬間があると思いました。

千早 逆に結婚はただただめでたいものという側面が強くて、あまり差がでてこないんですかね。

金原 そうですね。結婚しただけなら、まあまあ楽しい結婚生活を送ってるんだろうと思うだけなんですけど、別れる段階になると、「そこが許せなかったのか」とか、「離婚条件で競り合ったのそこか」とか、エピソードのディテールが人によって全然違う。離婚の話ってその人のパーソナリティが溢れ出すので、結婚より全然面白いですね、ネタとしては。