「大友克洋さんの言葉を思い出して…」

 犯罪ドラマでもある本作には殺害シーンがちりばめられており、その犯行描写は緻密に描き込まれている。

「容赦ない世界の物語なので、それはきちんと見せるべきということです。ただしインパクトのあるシーンを作っても、それを見せつけるような描写は避けました。たとえば死ぬカットは一瞬にしたり、髪やガラス越しなど前景を使うことで生々しさを抑えています。実は絵コンテを切っている時、人が死ぬカットを描きながら後悔の念に襲われたんです。その時に思い出したのが、大友克洋さんが『AKIRA』で崩壊するネオ東京の建物を描く時に、それぞれのビルの中にいるであろう人々に思いをはせたという発言でした。私も意味のない暴力は描かない、暴力を楽しむような描写はしないよう心がけ、自分が感じた思いを託すためそれらのシーンはレイアウトも自分で描いたんです」

© Everybody on Deck - Je Suis Bien Content - EV.L prod - Plume Finance - France 3 Cinéma - Shine Conseils - Gebeka Films – Amopix

 アニメーターとしても活躍したペランは、監督や脚本のほか、絵コンテやレイアウトなどにも関わっている。

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「キャラクターやロボット、ビークル類のデザイン、アニメーション、色指定や3Dカメラのオペレート、編集、特殊効果……音楽やサウンドデザイン以外のパートはひととおり手を入れました。とはいえ、作業量としては少ないですし、自分の名前ばかり並ぶのも嫌なのでクレジットはしませんでした」

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 日本のアニメーションの大ファンを公言しているペランは押井守、大友克洋、今 敏、川尻善昭、宮﨑駿ほか多くの監督たちの作品を見続けてきたマニア出身のクリエイター。学生時代には、宮﨑監督とのコンビで活躍した作画監督の大塚康生の講義を受けたこともある。

「大塚さんの作画スタイルで最も勉強になったのは、一連のアクションの中で起きる出来事のコマ単位での考え方。講義で出された課題は、ヒョウが上から落ちてきたものを避ける動画で、できるだけ避けるタイミングを紙一重にすることでした。コマ単位でどれだけサスペンスを盛り上げることができるのか。まさにアニメーションだからこそできる表現だと思います。それを追求することはアニメーション作りでいつも心がけていますし、それはこの『マーズ・エクスプレス』にも生きていると思います」

ジェレミー・ペラン 1978年、フランス生まれ。2004年にテレビシリーズのパイロット版および短編映画で監督デビュー。『ゲンスブールと女たち』(09年)のオープニングクレジットや、ミュージックビデオなどを手がけ、テレビシリーズ『ラストマン』(16年~)では監督・脚本を務めた。

INTRODUCTION

火星を舞台に、最新の宇宙工学を取り入れ、人間とロボットが共存する未来を描いたフランス製アニメが日本上陸。日本語版も発売されたバンド・デシネが原作のテレビシリーズ『ラストマン』(16年~)で注目されたジェレミー・ペランの初劇場監督作で、ロボットと人のアイデンティティという古典的なSFのテーマを、ノワール調のサスペンスで描くエンタテインメント。大友克洋の『AKIRA』、押井守の『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』、今敏の『パプリカ』など、日本の名作を彷彿とさせるところにも注目。

 

STORY

西暦2200年。私立探偵アリーヌはロボットの解放運動に協力するハッカー・ロベルタを地球で捕まえ、火星に戻ってくる。しかし、ロベルタはなぜか解放されてしまい、不満を抱えたアリーヌのもとへ、行方不明となった依頼人の娘を捜索する仕事が舞い込む。アンドロイドの相棒カルロスとともに、捜索を始めると、そこには首都ノクティスの暗部が広がっていた。

 

STAFF & CAST

監督:ジェレミー・ペラン/声の出演:佐古真弓、安元洋貴、内田夕夜、三瓶由布子/2023年/フランス/89分/配給:ハーク、トムス・エンタテインメント/© Everybody on Deck - Je Suis Bien Content - EV.L prod - Plume Finance - France 3 Cinéma - Shine Conseils - Gebeka Films – Amopix

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