カルト映画として高い人気を誇る『ファンタスティック・プラネット』(73年)や『ディリリとパリの時間旅行』(18年)など、個性的な作品を輩出しているフランス・アニメーション。そのなかでもこの『マーズ・エクスプレス』は押井守や大友克洋ら日本のクリエーターに受けた影響を随所に感じさせながら独自の世界を展開する本格SFエンタテインメントである。
「ずっとSF映画を作りたくて、駆け出し時代から脚本家のローラン・サルファティと構想を温めてきたんです」と、本作の監督をつとめたジェレミー・ペランは語る。
その夢は、大人向けのバトルアクションアニメ『ラストマン』(16年~・日本未放送)の第1シーズンを成功に導いたことで、実現することができた。それが本作だ。しかし当初2人が温めてきたのは、完成した作品とはかけ離れた物語だった。
最初は『コブラ』のような作品を構想していた
「考えていたのは、60~70年代のサイケデリックな要素を持った『バーバレラ』(68年)風のポップでパンクな作品。日本でいえば『コブラ』のようなテイストでした。でもアイデアを詰めていく中、現代的な問題を盛り込んだ、より科学的な作品にシフトしていったんです。ちょうどイーロン・マスクやジェフ・ベゾスが火星進出のプロジェクトを進めはじめた頃で、彼らをヒントに火星の資産家たちが登場する物語を書き始めました」
完成したストーリーは、行方不明の少女を探す私立探偵が巨大な陰謀に巻き込まれるサスペンス。
「ジャンルはSFですが、物語を進めるエンジンはフィルム・ノワールの探偵ものです。このジャンルも大好きですし、探偵を主人公にすればあらゆる層の人々にアクセスできる。いわば特権的な立場にいるので、未来世界を案内するガイドにもなってくれるんです」
元兵士のアリーヌと、同僚カルロスの記憶を持つアンドロイドのコンビが事件に挑む本作のテーマは、テクノロジーと倫理だ。
「AIが注目されていますが、そもそもロボットと人の記憶、アイデンティティというのはSFの古典的なテーマ。それを自分たちなりに解釈したかったんですよ。私たちが問いかけたのは、生きた細胞を持たない個体は人間なのか。私個人はカルロスはコピーにすぎず、もはや人間ではないと思っています。それはロボットを蔑視しているわけではなく、人間とは違う存在だということです」


