「問題はありません、やりましょう。次回は取材を行うディレクターとカメラマンなどにも声をかけますので、彼らを交えて来週ミーティングをしましょう。費用も必要ありません」
ベールに覆われた占領地の内側に肉薄できる可能性が急浮上した。しかし、結論から言うと、彼らとのミーティングが開かれることはなく、彼らとの“共同取材”は実現しなかった。局長からは「現場が忙しく対応できないことがわかった」とのメッセージが送られて来たきり、一切、返信はなくなった。
どのような力が働き、いかなる判断が下されたのかは不明である。
ただ、この放送局から返信がなくなったことと軌を一にして、既にやりとりを開始していた他のロシアメディアや占領下の学校、ロシア愛国団体などからの返信も途絶えた。
「悔しい」と涙を流したウクライナ人の通訳者
ここから先の話は、書けないことが多い。
どのようにロシア側の協力者を見つけたのか。そして、占領地の情報をどう集めたのか。
取材手法を明かすことは「橋を燃やす」ことを意味する。一度明らかにしてしまえば、その手法は二度と使えなくなってしまう。
そして、七転八倒の末、番組は完成した。
翻訳を手伝ってくれたウクライナ人の通訳者は、番組の試写を終え「悔しい、悔しい」と涙を流していた。
取材者としては、当初まったく見えていなかったものが見えるようになり、占領地についての解像度が格段にあがった。停戦に向けて交渉が続いているが、ウクライナが領土を諦めれば平和が訪れるという単純な話ではないことがよくわかる。
ウクライナの人々はよく、「我々は領土のために戦っているのではない」ということを口にする。この番組が、その言葉の意味を理解する補助線となることを願っている。
◆NHKスペシャル「臨界世界 戦慄の占領地 “ロシア化の実態”」
2026年1月25日(日)夜9時放送。「NHK ONE」で、2月1日(日)まで見逃し配信予定
◆これまでに制作されたロシアの軍事侵攻関連の番組
・NHKスペシャル「ウクライナ大統領府 軍事侵攻・緊迫の72時間」(2023年)
・NHKスペシャル「戦場のジーニャ~ウクライナ 兵士が見た“地獄”~」(2024年)ギャラクシー賞奨励賞
・NHKスペシャル「女性兵士 絶望の戦場」(2025年)ギャラクシー賞奨励賞
