AKB48の峯岸みなみや大場美奈に3000万円をつぎ込み、現在も年間500万ほどをアイドルに使い続けているかちょす氏(53)。発売直後から話題を呼んでいる『「推し」という病』にも登場したかちょす氏が語る、全てをかけて人を推し、結婚で卒業したメンバーを恨まずにいられる理由とは。

AKB48に3000万円以上、現在も地下アイドルに年間500万円ほどを使うというかちょすさん ©文藝春秋 撮影・細田忠

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「アイドルに裏切られたと怒るオタクがいたら、そんなアイドルを選んだオタクの側が悪いと思う」

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 そう語るのは、かつてAKB48グループの「選抜総選挙」で、CD購入総額3000万円以上を投じた伝説のTO(トップ・オタク)、かちょす氏(53)。昨今、ファンとアイドルの距離感がゆえの悲劇的な事件が報じられるなか、四半世紀をアイドルに捧げてきた男の言葉には、ある種の「悟り」が宿っている。

「かちょすがマンションを売って大場を押し上げた」という噂も

 かちょす氏が48グループに投じた金額は桁外れだ。峯岸みなみに約1000万円、そして元SKE48の大場美奈には約2000万円を費やしたという。

「シングルが出るたびに100枚、200枚は当たり前。総選挙のときは1000枚買ったこともあります。クレジットカードは止められるので、事前にカード会社へ『今から大量決済します』と連絡を入れていました。当時はTSUTAYAの正社員だったので、社販で仕入れて自ら自宅へ運び込みましたね」

 巷では「推し活のためにマンションを売った」という都市伝説まで流れた。本人は「誇張もありますが」と笑いつつも、家族所有の空きマンションを売却した資金の一部を、2018年の「世界選抜総選挙」に注ぎ込んだことは事実だという。結果、大場美奈は自己最高位の8位にランクイン。「かちょすがマンションを売って大場を押し上げた」という噂は、オタク界隈を駆け巡った。

 その後大場は結婚し、昨年第1子を出産したが、かちょす氏に「裏切られた」という感情は微塵もない。

大場美奈の結婚式 本人インスタグラムより

「大場はかなり前から卒業日を提示し、3日間4公演という、歴代でも屈指の円満な卒業コンサートをやってくれました。区切りをつけさせてくれた彼女には感謝しかない。スキャンダルや突然の失踪ではなく、美しい幕引きを見せてくれることが、オタクにとって最大の報いなんです」

 大場の卒業で「オタ卒」するかと思いきや、かちょす氏の情熱はさらに加速していた。現在、主戦場としているのは、いわゆる「地下アイドル」の現場だ。本人は敬意を込めて「天空」と呼ぶ。

病院をこっそり抜け出してライブへ行き、病院を「出禁」に

 驚くべきは、メジャー時代よりも現在のほうが支出が増えているという事実だ。

「メジャーはツアーが年数回ですが、地下は毎日のようにライブがある。僕は『最前・ドセン(最前列中央)』で観ないと気が済まない。チケット代やチェキ代を合わせると1回1万円以上、それを週3~4回。月20~30万円、年間で400~500万円は使っています」

 53歳にして、貯金は「多分ゼロ」。給料は親の口座に振り込まれ、そこから「お小遣い」をもらう生活だ。ディスカウントストアの責任者として夜勤をこなし、ライブの時間を捻出する。

「去年の3月、脳梗塞で倒れて入院したんです。でもどうしても行きたいライブがあって、病院をこっそり抜け出しました。会場で運営の方が椅子を用意してくれたりして。でも病院に戻ったら警察を呼ばれる大騒ぎになっていて、『もう受け入れられない』と病院を出禁になりました(笑)」

 

 そこまでしていても、かちょす氏は、アイドルとの「繋がり(私的交流)」を求めない。ルールを破って「出禁」になるのが何よりも怖いからだ。

「アイドルは可愛んだから、モテて当たり前。バレなければ何をやってもいい。でも、隠し通すのがオタクへの礼儀です。それが露呈したときは、そんな子を選んだ自分の『見る目』がなかっただけ。刺したり恨んだりするのはお門違いですよ」

 婚期を逃し、子孫を残せなかったことに一抹の寂しさはある。だが、それ以上に「他の人には味わえない人生」を歩んでいる自負がある。

「還暦を迎えても最前にいたい。僕の人生、死ぬまでアイドルオタクですよ」

「推し」という病 (文春新書 1519)

加山 竜司

文藝春秋

2026年1月16日 発売

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