辛い背景をもった役の、幸せな瞬間を大事にしたい

――今回は、中国残留孤児であるあつ子という、悲劇を象徴的に表す大変辛い部分もある役ですね。

奈緒 時代の痛みを背負った役だと思っています。人が見守られずに、手を差し伸べられずにいるとどうなるのかということを、あつ子からすごく痛々しく受け取ることができます。原作を読んでいて、私自身、胸がとても痛むんですけど、たくさんのことをあつ子から学ばないといけないと感じています。

 確かに、今回あつ子という役と向き合って、きっと大変辛い時間が訪れるだろうと覚悟しています。ただ、私はこれまでも辛い背景を持った役とたくさん出会ってきたのですが、いつも幸せな瞬間を大事にしたいなと思っているんです。人は多面的な生き物だと思うので、その境遇で全てを分かって語ってしまうようなことはしたくない。あつ子が感じた幸福な時間には、私も本当に幸せな気持ちでその場に立っていたいなと思います。今回の物語の中では、喜びや悲しみや、いろんな気持ちにどんどん心が飛んでいく。そんな心の旅でもあると思います。恐れずにいろんな気持ちに飛んでいけたらいいなと思ってます。

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あつ子役は戦争の悲劇を象徴

――辛い背景の役が多かったとのことですが、ご自身の中でどういう風に始末をつけていくか、舞台を降りた後に引きずってしまうようなことはありませんか?

奈緒 役を引きずるということはあまりないんです。経験した役の時間が自分の中に絶対に残るので、自分という人間がいて、そこに演じた人の記憶というものが血として混じっていくみたいな感覚です。なので、どこかに自分の中にほのかに今まで演じた役というのは残っていて、ふとした瞬間に実生活で顔を出して、「あの子は元気かな」とか思うことはたくさんあります。

撮影:志水隆

舞台に立ってしまえば「むき出し」

――過去に経験された役が、たまにふっとよみがえってくる。

奈緒 ええ。だから、役との出会いは、人との出会いにすごく似ていると思います。今まで出会った役たちが、ふと記憶で蘇ったり、「あの人は元気かな」と気にする瞬間が生活をしていると訪れるので、実際にお会いした方たちと変わらない存在になって、記憶として残っていくという感覚です。

――映像作品にもよく出演していらっしゃいますが、役との向き合い方で舞台と違うことはありますか?