がん検診の「デメリット」
このことからわかるのは、肺がん検診で「異常なし」と言われても、結果的に肺がんを発症する人が一定数いるということなのです。この偽陰性は肺がんだけでなく、他のがん検診にもあります。このように、がん検診には「がんの早期発見でがん死亡率が下がる」というメリットだけでなく、「一定の割合でがんを見逃される」というデメリット(不利益)もあるのです。
デメリットは偽陰性だけではありません。前出のガイドラインには、「肺がん検診の不利益には、偽陰性、偽陽性、過剰診断、偶発症、放射線被曝、受診者の心理的・身体的負担などが該当する」と書かれています。
「偽陽性」とは、偽陰性とは逆に実際はがんではなかったのに、「異常あり」とされて精密検査を受けることを言います。「過剰診断」とは、命に関わらない病変を「がん」と診断してしまうことを言います。「偶発症」とは、医療行為にともなって、予期せず起こる合併症のことを言います。さらに、毎年のように胸に放射線を浴びると、弱いとはいえやはり放射線被曝が積み重なることになります。
重大なインフォームド・コンセント違反
そして、このことについて、先のガイドラインには次のように書かれています。
「我が国でのがん検診全般について認められることであるが、その利益と不利益については、現状では十分な説明が行われていない。(中略)検診の利益としての肺がん死亡率減少効果について適切に説明するとともに、偽陰性・偽陽性・被曝などの不利益について十分な説明を行う必要がある」
がん検診を受けるときに、こうしたデメリットについて、どれだけの人が説明されたでしょうか。自治体のポスターなどでは、早期発見の重要性ばかりが訴えられていますが、デメリットまではっきりとわかるように書いたものを見たことがありません。これは、ガイドライン無視の「インフォームド・コンセント違反」にあたる重大な問題だと私は思っています。