そもそも肺がん検診で死亡率は下がるのか
それに肺がん検診の有効性自体にも、私は疑問を持っています。国のガイドラインでは「死亡率減少効果を示す相応な証拠がある」として、肺がん検診(胸部X線検診)を「推奨グレードA」に次ぐ「B」に格付けています。
しかし、信頼性(エビデンスレベル)の高い臨床研究を厳選して有効性や安全性を評価した世界的な医学プロジェクト「コクラン・システマティックレビュー」によれば、約15万5千人を対象に4年間肺がん検診を受けたグループと通常のケアを受けたグループとに無作為に分けて追跡した研究では、13年後の肺がん死亡率に差はありませんでした。
公費を投じ続ける意味がない?
さらに、複数の臨床研究のデータをまとめたメタ解析では、胸部X線検査を頻繁に受けた人たちと頻繁に受けなかった人たちを比べたところ、頻繁に受けた人たちのほうが約1.1倍、肺がん死亡率が高くなる傾向が見られたとも書かれています(Screening for lung cancer. Cochrane Database of Systematic Reviews. 2013.)
後者については、「いくつかの試験には方法論的に弱点がある」と書かれており、コクランの結論は決定的とは言えません。ただ、これを見ればわかるとおり、肺がん検診の死亡率減少効果があると胸を張って言えるような信頼性の高いデータはないのです。
だとしたら、見逃しの問題があるだけでなく、有効性も不確かながん検診に公費を投じ続けることが正しいとは言い切れません。
こうした問題を抱えているのは、肺がん検診だけではありません。EBM(科学的根拠に基づく医療)の手法で厳しく評価すると、がん検診は有効性に疑問符がつくものばかりなのです(参考:独立行政法人経済産業研究所・関沢洋一上席研究員「エビデンスに基づく医療(EBM)探訪」第4回「がん検診は効果があるか?」)
放射線科医が不足している
では、今後、どうするべきでしょう。
胸部X線による肺がん検診を続けるならば、まずは、見逃しがないようより努力すべきです。しかし、今回のケースのように専門家であるはずの放射線科医が入って、ダブルチェックをしたとしても、見逃しは起こってしまいます。
それに、日本の放射線科医の数は不足していると言われており、膨大な数のX線画像をすべてじっくりと見るのは無理だと言われています(一般社団法人日本放射線科専門医会・医会ホームページ「放射線科医の現状と未来について」)。