患者さんとの会話のキャッチボールが重要

【山口】医療分野では、医療者と患者が持っている情報の質が全く違います。いわゆる情報の“非対称”です。そのため、同じ日本語でコミュニケーションしているのにイメージの隔たりがある。COMLではある病院で医師1年目の初期研修医向けに「医療面接セミナー」を行なっています。そこでは医療者側と患者側の視点の違いが明確になります。

【武中】医師が、本物ではない模擬患者さん、シミュレーテド・ペイシェントを“診察”するものですね。

【山口】研修医は模擬患者に必死で説明するんです。中には理路整然と説明する研修医もいます。すると同じ研修医たちは、「説明が見事だった」と称賛します。一方、模擬患者側は「私の言い分を聴いてもらえなかった」「理解しているかどうかお構いなしに説明が一方的に進んだ」というフィードバック(感想)でした。

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【武中】(深くうなずいて)まだ患者さんにベクトルが向いていないんです。手術するときの合併症の説明をしなければならないとします。出血、感染症、再手術の可能性がそれぞれ何パーセントあります、というようなことをバーッと言う。あー全部言った、良かったと満足する。

2回目は劇的にコミュニケーションが変わる

【山口】一方、患者は全く納得していない。うわーっと説明されただけで、何も理解できていないんですから。

【武中】頭に詰め込んだ知識を口から出しているだけなんです。ただ、若いときはぼくもそうだったかもしれません。だから若い先生には、患者さんと会話のキャッチボールをしなさい、理解されているかどうか確認しながら進めるようにと言っていますが……。

【山口】医療知識、経験に加えて、医師に限らず、今の若い人は自分たちと違った世代の人たちと付き合いをしない傾向があります。

【武中】さらに医学部ブームとか言われて、偏差値重視になり、コミュニケーションを苦手とする学生も多い。

【山口】高校や予備校の教師が、偏差値が高い学生に医学部進学を薦めると聞きます。しかし、患者と向きあう臨床医は、子どもの頃から培ったコミュニケーション能力も必要。ただ、模擬患者による我々の「医療面接セミナー」などで、ある程度の改善は可能です。