名著を漫画化する難しさ
──週刊文春の連載は、2022年4月にスタートしました。原作は累計発行部数が2500万部を超える大ベストセラーですから、たくさんの竜馬ファンがいますね。
山崎 司馬遼太郎さんの『竜馬がゆく』で、世間での坂本龍馬の印象が作られたようなものですよね。大名著を漫画化する難しさがあったのではないでしょうか。
鈴ノ木 最初にお話があったとき、実はお断りしようと思ったんです。
山崎 え、そうなんですか?
鈴ノ木 坂本龍馬を描いた小説や映画は数多くありますし、僕自身は漫画『お~い!竜馬』(武田鉄矢原作・小山ゆう作画)の大ファンでしたから「あの竜馬は絶対に超えられない」と考えました。「僕には描けません」と率直にお伝えしたら、編集者から「小山先生のは30年も前ですから、新しい竜馬を描いたらどう?」と言われて、僕は単純なので「そうだねえ」となったんです(笑)。
山崎 好きだからこそのためらいがあったんですね。
鈴ノ木 そうなんです。司馬先生の小説は学生時代に読んでとても影響を受けました。大学の書類に「尊敬する人物」の欄があって、坂本龍馬にしょうか、ジョン・レノンにしようかと悩んだあげくに両方書いたぐらい。当時からバンド活動をやっていたから甲乙つけがたくて。
山崎 そっか。表情ひとつとっても違うというか、「竜馬が好きな人が描いてるんだろうな」って読みながら感じました。たとえば、江戸へ向かう途中で初めて富士山を見て、同行者との会話中に突然走りだして「富士じゃ!」と叫ぶ場面。竜馬らしい興味がパッと移る感じ、自由人っぽいところが要所要所に出てきて楽しかったです。
鈴ノ木 ありがとうございます。竜馬ファン全員が納得するものは描けないし、縛られてもいけない、自分にできることをやろうと考えた結果なんです。

