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新浪剛史が語る「経済外交」 米中貿易戦争「トランプの考え方は古い」と言える理由

新浪剛史が語る「経済外交」と「日本経済」#1

2018/08/14
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関税引き上げにはアメリカの産業界も反対している

――経済面ではトランプ大統領と習近平国家主席の間で、米中貿易戦争が勃発していますが、この問題についてどのように見ていますか。

©鈴木七絵/文藝春秋

新浪 トランプ大統領は中間選挙対策として中国をスケープゴートにしている側面があります。結局、トランプ王国と言われるラストベルト(衰退した産業地域)の支持層にアピールしたいだけなのです。

 対中関税の引き上げによる制裁措置は、アメリカの産業界も反対しています。ただ、デジタル分野については、中国による知的所有権の侵害や外国企業に技術移転を強要する不正な手段に批判があり、半分反対、半分賛成の立場なのです。

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 他方、産業界はTPP(経済自由化に関する協定)については大賛成です。トランプ大統領さえ反対しなければ、世界のGDPの4割近くをまとめ、人口約8億人を抱える巨大な経済圏が誕生するはずだった。そしてそれが国際ルールとなったはずです。最終的にもちろん中国に対して国際ルールを守る圧力となったでしょう。

米中は政治では敵対し、ビジネスでつながっている

――トランプ大統領に対して、産業界は批判的であるということですか。

新浪 デジタル分野の知財やデータは、アメリカが世界のヘゲモニーを握っています。これまでの貿易協定ではモノが中心でしたが、今は「GAFA」(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)と言われるように、データやライセンスをいかに管理するかが主戦場となっています。その意味で、トランプ大統領の考え方は古い。アメリカ産業界のリーダーと話しても、「TPPについてはしばらく待ってくれ」と実現への含みを漏らしています。

 結局のところ、アメリカの産業界はこのまま米中貿易戦争がエスカレートしてほしくないと考えています。なぜなら多くの企業が中国ビジネスと絡んでいるからです。大手投資ファンドのブラックストーン・グループCEOで経済界の大物であるスティーブン・シュワルツマン氏などは、むしろ日本パッシングの急先鋒です。アメリカのCEOはほとんど中国のビジネスに少なからず関わっています。表面では敵対しているように見えても、裏では繋がっているのです。

©AFLO

――米中は政治では一見敵対しているように見えて、裏ではビジネスでつながっている。日本は、どちらかといえば、米中が敵対している状態を望んでいるように見えますが、どのように対応していけばいいのでしょうか。

新浪 アメリカは株主資本主義の権化のようなものです。巨大な市場で大きな収益の見込める中国には当然ながら、大きな関心を持っています。やはり中国市場は魅力的です。例えば、今後経済成長が見込める世界の中間層の半分が中国人と言われています。飛行機でも一番売れるのは中国ですし、むろん消費財も中国で売りたいのです。

 アメリカにとって、人口約14億人を有する中国市場は、どうしても抗いがたい魅力があるのです。でも、中国はしたたかです。THAADミサイル(高高度防衛ミサイル=サード)が配備されたときは、土地を提供したロッテグループに対し、市場から閉め出すなどの経済報復を行いました。その意味では、いわゆる地経学というべきものが台頭しているのです。中国がアメリカと貿易戦争を起こしている今、日本にとっても中国との付き合いは非常に重要性が増していると言えるでしょう。

取材・構成=國貞文隆

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