世界が注視する米中貿易戦争の「本当の狙い」とは? アメリカ外交問題評議会のグローバルボードメンバーを務める新浪剛史氏が論じます。サントリーホールディングス社長というビジネスマンとして、また、日本経済の指針を議論する経済財政諮問会議メンバーとして考える「経済外交」日本の進む道とは? 

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外交問題協議会での「安倍・トランプ関係と地政学」という話題

――2016年11月からアメリカの外交問題評議会(CFR)のグローバルボードメンバーに就任されています。日本人では新浪さんだけだそうですね。

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©鈴木七絵/文藝春秋

新浪 ボードメンバーは、世界のビジネス界、学界、元政府関係者などの中から25〜26名が選ばれます。私はかつての上司である小島順彦三菱商事相談役(前会長)から引き継ぎました。一昨年、CFRのリチャード・ハース会長(元国務省政策企画局長)から推薦を受け、正式に就任することになりました。現在、日本人は私1人です。CFRは外交論壇誌の『フォーリン・アフェアーズ』(日本語版あり)を刊行しているうえ、アナリストの多くはホワイトハウスを経験しており、議論のレベルは非常に高いですね。

――CFRはアメリカ外交の方向性を定め、世界情勢に多大な影響力を有する組織だと言われていますが、内部の議論で日本はどのように語られているのでしょうか。

新浪 例えば、安倍総理とトランプ大統領の仲が良いことが、地政学的にどのような影響を与えているのか。その是非について聞かれることが多いですね。トランプ氏は好悪の激しい大統領ですから、日本はそれだけのリスクをとった。それも安倍政権が長期政権だから、とれた。その安定性は評価されています。これまで日本はどっちつかずの姿勢ばかりをとってきましたから、非常にクリアなメッセージとなっているのです。ただ、日本の立場を考えると、賛否があることは否定できません。

©AFLO

なぜアメリカはアジアに関心が低いのか

――欧米の論壇では、アジアよりも中東に関心が高いと言われます。

新浪 トランプ大統領が今年5月にイランとの核合意を一方的に破棄したとき、CFRではオバマ政権の国務長官だったケリー氏が激しく批判していました。合意までの苦労を知っているケリー氏は、破棄したら、本来ならもう一段上に合意を発展すべきなのに、大変なことになってしまうと憤っていましたね。ほかにも内戦の続くシリアなど、やはり中東情勢について関心が高い。ただ、アメリカでは、ロシアに対する緊張感も非常に強いように感じます。朝鮮半島情勢や中国についての議論が盛んになったのは、ここ最近です。

――アジアへの関心は低いということでしょうか。

新浪 それには理由もあるのです。米軍でも国防総省でも、出世する人はほとんど中東経験者です。現在のマティス国防長官もイラク戦争に出征しています。一方で、アジアを経験した中枢幹部はほとんどいません。それは戦争がないからです。結局、紛争が多発する中東情勢が関心の中心となる。南シナ海や東シナ海での中国の動きも、クローズアップされることはそれほど多くはないのです。