著者による巧みな物語運び
お産が取れない助産師という設定から、よくある「血が苦手で手術ができない医師」のようなキャラクターなのかと思って読んでいると、少し違うことがわかる。初めて立ち会った分娩の場でまゆは「あなたはなぜ、それほどまで強く生まれたいと願うの?」と問いかける。後に、まゆが自身の出生について心の傷を抱えていることが告げられ、この問いが彼女にとって重要な意味を持っていることがわかる。助産師になろうとするまゆを阻む壁は、実は彼女の中にあるのだ。
プリセプターの亜美にも挫折の過去があり、物語の後半で二人は自身の過去に立ち向かっていくことになる。闘いの根底には、新しいいのちを大切にしたいという思いと、生への感謝の念があるのだ。物語の終盤、ある登場人物がまゆに向かい、「これまで生きてきてくれてありがとう」という言葉を掛ける。いのちの現場に立ち会ってきた作者の、偽らざる思いでもあるだろう。
それにしても藤ノ木優は巧みな語り手だと思う。小説の構造に無駄な部分が一切ないのだ。第1話で亜美から強烈な駄目出しをされたまゆは、第2話「ウマ・シマウマ・トラウマ」で意外な活躍をする。助産師課程を優秀な成績で卒業した彼女ならではの働きである。失格と言われてもめげない強さと、思わず応援したくなる熱意が読者に伝わるだろう。第三話「初めての夜勤」で底を蹴って浮上するきっかけを掴むのだが、第4話「『すみません』と『ありがとう』」で再び巨大な壁に前途を阻まれる。蓄えた知識でそれを乗り越えようとするまゆは、空回りをしてしまう。
