大きな満足感をもたらす第2巻
ロマンティックな設定に心を惹かれつつも、朝名を取り巻く状況があまりにも過酷で、読んでいてつらいと感じてしまった読者も中にはいただろう。そんな人は、ぜひ安心して第2巻の『人魚のあわ恋 秘めた想い、二つ』を手に取ってほしい。前作の残酷さはよい意味で後景化し、運命をともにする覚悟を決めた二人の奮闘と仲睦まじい姿が、甘やかなタッチで綴られる。「もっとヒロインに幸せになってほしい」と願う読者の期待に存分に応える展開は、大きな満足感をもたらすはずだ。
『人魚のあわ恋 秘めた想い、二つ』の朝名は、父と兄の支配下から一時的に逃れ、婚約者である咲弥の家に身を寄せている。だが彼らは商売のために娘を取り戻そうと画策し、朝名を守りたい咲弥は天水家に対抗するため、水面下で密かに動いていた。ある日、朝名は咲弥から〈――君は、家族を傷つける覚悟はある?〉と問いかけられる。この言葉をきっかけに、彼女は家族の問題に対峙する決意を固めるのだが……。
天水家という檻から一時的に解放された朝名は、自由と希望を手に入れた。だが同時に、俯瞰的な視点を得たことで、これまで「人魚の血の娘」としてたくさんの人を不幸にしてきた事実を突き付けられることになる。どうすれば自分の罪を償い、家族との因縁にも決着をつけられるのか。咲弥の言葉に励まされつつ、自分なりの贖罪のやり方を探して行動する朝名は、絶望して何もかもを諦めていたかつてのひ弱な少女ではない。咲弥という心から信頼できる相手と巡り合い、どんどんと強さを獲得して自らの手で未来を切り拓く朝名の姿に、熱い気持ちがこみ上げた。
本作は、女学校を舞台にした青春学園小説としての一面もあり、今は恋敵となってしまったかつての友人・杏子や、朝名を「お姉さま」と呼び熱烈に慕う下級生の智乃、凛とした性格の一匹狼だがなぜか朝名に声をかけてきた同級生のマキなど、個性的なキャラクターたちが物語を彩っていく。秘密を共有できる仲間を得た朝名の成長や、天水家の問題に向き合う朝名を援護射撃する女学生たちの大胆な作戦も、本作の大きな見どころだ。
高まりゆく互いへの恋心と、優しいふれあいを描いたロマンスパートはなんとも甘酸っぱく、くすぐったくも幸せな読後感を残す。これまでの咲弥は、どこまでも紳士的な好青年として朝名に接してきた。だが彼女への想いが深まるにつれて余裕を失い、嫉妬心など以前ならば決して表に出さなかったどす黒い感情も垣間見せていく。思いがけないかたちで露呈する咲弥の一面や独占欲も、二人の関係性が進展していることをうかがわせるものだ。
愛する人や、大切に思う人たちの存在に支えられた朝名は、彼女を閉じ込める鳥籠を自らの手で壊し、大きく羽ばたいた。強さと輝きを増した朝名はどこまで羽化するのか、そして咲弥との関係にはどんな波乱が待ち受けるのか。二人の姿と尊い絆をこれからもこの目で見届けていきたい。
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『人魚のあわ恋 秘めた想い、二つ』(文春文庫)の冒頭を読むにはこちら。