苛酷な運命を背負ったヒロインに、圧倒的にポジティブな青年が“婚約者”としてやってくる――。
「龍に恋う」シリーズなど、やさしく美しい恋愛ファンタジーを数多く手がける道草家守さんによる新作『花贄さまの初恋』が、3月4日に発売されました。
草花を自由に咲かせる不思議な力を持つヒロインと、まっすぐで正義感の強い青年が織りなす本作は、どのようにして生まれたのでしょうか。道草さんにお話を伺いました。
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背景が重めだからこそ、温かく読んでいただける話を
――『花贄さまの初恋』のお話を思いついたきっかけをお聞かせください。
道草 一度は嫁入り、結婚ものを書きたいなと思いまして、今回ご提案しました。花を咲かせるというモチーフは以前から気に入っていて、別の形でもう少し掘り下げて表現できたらと考えていました。
映画「鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎」が爆発的にヒットしたとき私も心臓を打ち抜かれたのですが、特にヒロインとも言うべき女の子があまりに辛くて悲しくて、因習村に生まれても幸せに暮らせるルートがある世界線を作りたい!となり、編集さんに力説した覚えがあります。
――『花贄さまの初恋』には、不思議な力を手にしてしまったヒロイン・霜子と、いかめしい見た目に反して素直で快活な青年・晴晃が登場します。思わぬ婚約関係から始まりますが、二人の距離が少しずつ縮まっていく様子が読みどころのひとつだと感じました。道草さん自身、どんなことを考えながらこの二人を書かれましたか?
道草 今回は、物語の背景が重めだったので、温かく読んでいただける話を目指しできる限り二人には日常の会話をして欲しいな、と随所に差し込むようにしていました。二人の探り探りのぎこちないやりとりから、徐々に打ち解けていく過程を楽しんでくだされば嬉しいです。難しかった部分というと、今回は「贄として選ばれることで異能を得る」という世界をどうわかりやすくお伝えするかは苦心しました。編集さんにもご助言いただいて、何度も直してより良い表現を模索しましたね。
ヒロインを支えるのは「家事が得意」な強面青年
――本作は霜子が少しずつ世界を広げて、自信をつけていくお話だとも感じました。世界が広がっていき、しっかり意思表示を出していくという点では、「龍に恋う」シリーズの珠に通じる部分もあると思います。道草さんの作品のヒロインについて、お考えや、大切にしていることを伺えましたら幸いです。
道草 私は女の子が自分の力で幸せになる話が好きで、それが恋愛で成長であれ、受動的に受け入れるだけではなく自ら決意して変わることを意識して物語を構築しています。
一見小さく縮こまってしまっていても、それは閉じ込められた小さな世界だからで、一歩外にふみだせばいくらでも輝ける。この子達はこんなに魅力的なんだと読者さんに知ってほしいというのが一番ですね。
――晴晃も大変魅力的なキャラクターですね。心身ともに頑強で、家事も万能なのが編集部でも話題になりました! 晴晃のキャラクターはどのように出来上がったのか、よろしければお聞かせください。
道草 確か、このお話を作り出したとき、霜子よりも先に晴晃のキャラ構想をした記憶があります。今回はヒロインが背負う背景が重いので、生半可な男では支えきれないし救う過程に説得力を出せない。ならどんな逆境でも負けない太陽属性の青年にしよう!と考えたのが発端です。同時に、この話は望まれた役割になじめない人々のお話なので、意識して当時の男女に求められた役割を逆転させていました。
ここが、晴晃が世話焼きで家事が得意という面に出ています。
――霜子・晴晃と関わりをもつ他の贄巫や、惑い花に悩まされる人々も印象的です。道草さんの作品の多くは、人と、人ではないものの関わりが描かれていて、その読み味は楽しくもあり、ときどき切なくもあります。こうしたファンタジー設定の着想は、どこから生まれるのでしょうか。
道草 元々人ではないものが大好きで隙があれば人外をモチーフに書いていました。とはいえ私はまだまだ精進が足りないので、先人の素晴らしい作品に学ばせていただくことが多いです。
今回の「惑い花」の奇病は、漫画家の川原泉先生の短編「花にうずもれて」に登場する笑うと花が現れる少女が好きでして、じゃあ心の病が花として具現化したら面白いのではと思ったのが切っ掛けです。霜子の能力である花を咲かせるのは、映画「もののけ姫」のシシ神様が森の中を歩くたびに草花が生えて枯れるシーンが印象的で、では実際そんな人間がいたらどうなるかを考えました。
全体的に、その不思議な現象の理屈を考えはじめるのが切っ掛けかもしれませんね。

