7月12日、フジテレビ系『土曜プレミアム』で映画『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』(以下、『ゲ謎』)が放送される。
『ゲゲゲの鬼太郎』の生みの親・水木しげるの生誕100周年記念作品として作られた本作は、2023年11月に公開されると幅広い層から人気を博し、数多くの観客を動員。
翌2024年10月には、327カットのリテイクと再ダビングが施された『真生版』が公開され、累計興行収入30億円、累計観客動員数208万人を突破するロングラン・ヒットとなった。
時は昭和31年。帝国血液銀行に勤める水木は、日本の政財界を牛耳っている龍賀一族が支配する哭倉村へ向かう。彼はそこで、行方不明の妻を捜す謎の男・ゲゲ郎と遭遇。村に渦巻く恐ろしい因習とおぞましい妖怪が跋扈するなか、2人はそれぞれの目的のため協力することになる。
「妖怪 vs. 人間」という従来のバトルものとは一線を画し、かつてないほど不穏なムードに包まれた『ゲ謎』。なぜこれほどのブームを巻き起こしたのか、本稿ではその理由を考察していこう。
“大人向け”に原点回帰して大ヒット
Filmarks For Marketingのデータによると、観客の男女比はほぼ半々で、20代から40代を中心に幅広い世代から支持されている(※1)。これは非常に興味深い事実だ。
なぜなら、TVアニメ『ゲゲゲの鬼太郎』第6期シリーズ(2018~2020年)は、日曜朝9時~9時30分放送という、明らかなファミリー向けコンテンツだったからだ(このシリーズが、社会的テーマを含んだ、大人の鑑賞にも耐えうる内容だったことは事実だが)。
通常であれば劇場版もファミリー層をターゲットにするはずだが、『ゲ謎』は大胆にもPG12指定(『真生版』はR15+)に振り切っている。TVシリーズのファンに媚びることなく、大人向けのミステリーホラーとして徹底的に作り込んだことが、新たなファン層の獲得に繋がった。
思えば、貸本時代の妖怪漫画『墓場鬼太郎』は、人間の業や社会の暗部を深く描いた大人向けの怪奇譚だった。そう考えると、『ゲ謎』は水木しげるのオリジナルのスピリットに回帰した作品ともいえる。
それは、モンキー・パンチの『ルパン三世』が、テレビアニメ第2シリーズで子供向けの痛快娯楽路線に舵を切り、近年再び大人向けのハードボイルド路線へと回帰した流れとも似ている。
本作は、国民的IPをリブランディング/原点回帰することで、新しい可能性を押し広げたのだ。

