謎Tシャツの正体は……

 その5文字の左下には日本国旗、真ん中でバットが交差し右にはアメリカの国旗があしらわれていた。ヌートバーのミドルネームが「テイラー・タツジ」であることから「たっちゃん」。外野守備・走塁コーチの清水雅治が考案して作ったものだ。

「このTシャツのことは全く知らずに、佐々木投手が着ていて『なんて書いてあるの?』って聞いて、それでびっくりした」とヌートバー。

 母の母国の言葉で記された自らのニックネーム。自分の持つ背景に敬意を示す形での歓迎を受けて笑顔を見せたヌートバーも、チームの好意を肌で感じていた。目を細めて一連のやり取りを見ていた栗山もプラスに働いたと受け止めた。

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【たっちゃんTシャツは大正解。自然にチームに入ってくれると思う。】

 まさしく栗山が掲げた「野球のグローバル化」の第一歩を踏み出した瞬間でもあった。

©文藝春秋

栗山英樹が感動した「ファンたちの姿」とは?

 実はこの日、栗山の心が動かされた景色があった。名古屋市内の宿泊先からバンテリンドーム ナゴヤに向かう道中、白い半円のドームの屋根が見えてきたときのこと。

 何気なしに車窓から外に視線を送ると、日本代表のグッズを買おうというファンが球場周辺であふれんばかりの大行列を作っている様子が目に飛び込んできた。まだ試合が始まるだいぶ前のことだった。さらにドームへの入場が可能になると、無数の人たちが各ゲートに吸い込まれていく。練習から熱心に見守るファンの多さも印象的だった。

 おそろいのユニフォームを身にまとったカップル、グラブを手に最前列で好きな選手の名前を呼ぶ子どもたち、仕事を早く切り上げたのかスーツ姿の一行も球場を訪れていた。

 新型コロナウイルスの影響で無観客や応援の制限、さらには感染対策など野球界全体がかつてない苦境と真正面からぶつかってきた。その当時、日本ハムの監督という立場でその局面に対峙していたからこそ、スター選手やひいきの選手のグッズを求める人だかりや、球場を埋め尽くした3万5833人の声援に胸を打たれたのだった。

【昼から何でこんなに人がいるのかと思うぐらいグッズショップに並ぶファン。そして大声で応援して頂ける満員の球場を見て涙があふれてきた。野球、プロ野球が戻ってきたと。】

 自らの目で見た熱気の伝わってくる光景、背中を押してくれるような温かい音を耳にして感極まった胸の内がメモに込められていた。

次の記事に続く 「翔平の『すみません』という言葉を初めて聞いた」2023WBCで大谷が“謝った”ワケは…栗山英樹が明かす「運命の一戦」の舞台裏

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