「翔平ここだけはやめてくれ」「翔平、ここか……」

 2023年のWBC、優勝をかけたアメリカ代表との大一番。1点リードの日本代表は、最終回のマウンドに大谷翔平を送り込んだ。この回、監督の栗山英樹は大谷のピッチングを見て「ある懸念」が生まれていた――。

 数々の激闘を制した采配の裏側で、指揮官が日々記してきたノートと、栄冠への軌跡を描いた書籍『WBC 世界を制した采配の秘密 三原ノートと栗山メモ』(三木謙将・金沢隆大著/文藝春秋刊)から一部を抜粋してお届けする。(全4回の4回目/最初から読む

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2023年のWBCで侍ジャパンを優勝に導いた栗山英樹氏 ©文藝春秋

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「翔平がやられるときって、だいたい……」

 大谷の立ち上がり。スイーパーと最速160キロを超えるストレートを投げ込みフルカウントになる。7球目。渾身のストレートが低めに決まりバッターが見逃す。ストライクか─。だが、球審の腕は上がらない。フォアボール。

 先頭バッターの出塁を許した。このままでは終われないとばかりにスタンドが盛り上がり、ビジターで戦っていることを嫌でも感じさせられる。緊迫した場面で栗山がメモにも記していた「四球」が出た。今回は出す側になったことをどう捉えていたのか。

「それこそ準決勝の前に書いた通りで。翔平がやられるときって、だいたい先頭フォアボールなんですよ、昔から。『翔平ここだけはやめてくれ』って思いながらフォアボールだった瞬間に『翔平、ここか……』って思いましたよ、正直」

 悪いパターンに陥ってしまったのか。嫌な予感が芽生えそうになりつつも、栗山は冷静にピッチングの中身を見ていた。